コンボイス:リレー連載『リジツレ』第7回


◆リレー連載『リジツレ』◆
コンボ理事のみなさまはそれぞれの分野において第一線で活躍している方々です。
「リジツレ~理事の徒然~」は、そのようなみなさまの人となりが垣間見えるような、アットホームな雰囲気のエッセイをリレー連載するシリーズです。

 

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第7回『最近考えたこと』
後藤雅博さん(こころのクリニック ウィズ院長)
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(趣味は映画を観ることです)

私は映画が好きで、家族療法学会の機関誌「家族療法研究」に「映画に見る家族」という連載をしている。次号は「パリ20区 ぼくたちのクラス」(2008 フランス)という映画の予定なのだが、この映画はちょっと変わっている。原作は「教室へ」というベストセラー、原作、映画とも何か特別なドラマが起きるわけでもなく、淡々と1年間の中学校の日常を追っている。変わっているのは、共同脚本の原作者が主演までしていて、しかも当時原作者は現役の中学校の教師であった。さらに出演する生徒たちもすべて素人の実際の中学生だ。パリの19区、20区は移民の街として知られており、人種も雑多で親がフランス語を解さない様な生徒も多い。そういう子どもたちを教える国語(フランス語)クラスの話である。たとえば、中国人の生徒の両親が不法滞在で逮捕され、その弁護費用をと教師たちが寄付する場面があったりはするが、単なるエピソードのひとつである。また問題行動を起こした生徒の退学を決める会議に生徒代表として同級生が参加していたりしていて、さすが自由と平等の国だ。

そこで少しフランスの教育制度を調べてみた。日本と違うところは多いが、中でも2005年の法律改正で、障害児は原則普通学級での就学が学校の義務となり、保護者が希望すれば学校は態勢が整わない事を理由に断ることができない。また行政と教育機関はそれぞれの子どもに合わせて障害児教育計画を個別に作成しなければいけない。視覚障害、聴覚障害も含めてのことであって、全国的に特別支援学校、学級を減らしてきている。さらに隣国イタリアではこういったインクルーシブ教育は1970年代から進められており、今では資料上特別支援学校はゼロとなっているらしい。残っている国立の聾学校では逆に健聴者が入学して手話を学んでいるという。映画のように多民族国家のため多様性の尊重と共に、教育においても障害者と共生しており、その結果イジメに類することは極めて少ないという。

今年の9月9日国連の障害者権利委員会は日本に対して、障害児を分離した特別支援教育の中止と精神科への強制入院(医療保護入院)に関わる法律の廃止を求めた勧告を発表した。その背景にはこのような世界の趨勢がある。日本政府はこの勧告に対応する様子はないが、コンボも求めている医療保護入院の廃止は単に精神医療の変革の問題だけでなく深い文化的な問題とつながっているのである。

(2023/01/24配信)

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