特集5 SNS時代の承認欲求とうまくつきあうには(226号)


特集5
SNS時代の承認欲求とうまくつきあうには(226号)

○「こころの元気+2025年12月号より
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筆者:松﨑尊信 (←松﨑さんは1/17のこんぼ亭にご出演
久里浜医療センター精神科


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承認欲求とSNS

承認欲求とは、他者から認められたい、評価されたいという人間の基本的な心理的欲求です。
心理学的にはマズローの欲求階層説⇨特集2参照)における〝承認の欲求(Esteem needs)〟に位置づけられ、自尊感情や自己効力感の基盤とされています(※1)。

近年、SNSの普及は人々の対人関係のあり方を大きく変えて、個人の精神面にも大きな影響を与えています。
特に承認欲求は、SNSによる即時的な応答によって満たされやすくなっています。

本来、他者からの評価や共感は肯定的に捉えられるものですが、SNSの環境下では〝いいね〟やフォロワー数といった数値化された指標が個人の評価として機能します。
そのため、このようなわかりやすい指標が過剰に意識され、数値が上がれば喜び、下がれば落ちこむといった気分の変動をもたらし、SNSへの依存性を高める可能性があります。

なお社会的比較理論(Social Comparison Theory)(※2)によれば、人は、自らの能力や価値を他者との比較をとおして評価します。

SNSは、優位なものとの比較を誘発しやすく、長時間のスクリーンタイム(画面を見る時間)は自己評価の揺らぎや抑うつ、不安を高めるリスク要因となります(※3)。

 

FOMO(フォーモ)

さらに近年注目されているのが、FOMO(Fear of Missing Out …取り残されることへの恐怖)です。

SNSでは他者の楽しそうな日常や成功、〝映える〟情報が強調されやすく、そういった体験をしていない人は「自分だけが取り残されているのではないか?」という不安にかられてしまい、他者のメッセージを常に確認したいという欲求が生じます(※4)。

FOMOは承認欲求と社会的比較が複合的に作用して生じる現象で、過度なSNS利用を促す要因の一つとされています。
こうした心理的メカニズムは、抑うつや孤立感といった個人のメンタルヘルスとも関連しています(※5・6)。

 

SNSと健全に関わる

このような状況で、我々はSNSとの健全な関わりをいかに構築していけばよいでしょう。
鍵となるのはSNSとの向き合い方です。

1:偏った認知を修正する

たとえば「〝いいね〟が少ない=自分の価値が低い」という考えを、「〝いいね〟の数は、他者の状況やSNSのアルゴリズム(しくみ)に左右されているだけだ」と捉えなおすことで、過度に感情を揺さぶられなくなるでしょう。

2:行動面における刺激統制

たとえば、常にSNSの刺激にさらされているなら、SNSの着信通知のオフや利用時間を制限することで、メッセージの過剰な確認行動を減らせるでしょう。

3:他者との関係性を意識する

SNSを「承認の獲得」といった目的から「自己表現や他者とのつながり」へとシフトさせることで、「SNSは目的そのものではなく、手段である」という捉え方ができるようになるでしょう。

インターネットが普及している現代こそ、リアルな対人関係を作り上げることはきわめて重要です。
SNS上での一過的な反応よりも、リアルな対人関係によって得られる承認や共感は、時に衝突があったとしても、私達の心をきっと癒やしてくれるしょう。

 

まとめ

●SNSは承認欲求を過度に刺激しやすく、FOMOや他者との比較をとおして心理的な揺らぎを生み出す。
●しかし、SNSそのものではなく、SNSとの向き合い方にこそ改善の余地がある。
●アルゴリズムなどSNSのしくみを正しく理解し、認知の修正、刺激統制、リアルな対人関係の構築といった対応により承認欲求とうまくつきあうことができる。

最後に

インターネット時代にふさわしい形で、承認欲求をうまくSNSに適応させることは、現代に生きる私達に求められるスキル(技能)ともいえます。


文 献
※1:Maslow, A. H. A Theory of Human Motivation. Originally Published in Psychological Review vol. 50 www.excelcentre.net (1943).
※2:Festinger, L. A Theory of Social Comparison Processes. Human Relations 7, 117–140 (1954).
※3:Twenge, J. M. & Campbell, W. K. Associations between screen time and lower psychological well-being among children and adolescents: Evidence from a population-based study. Prev Med Rep 12, 271–283 (2018).
※4:Przybylski, A. K., Murayama, K., Dehaan, C. R. & Gladwell, V. Motivational, emotional, and behavioral correlates of fear of missing out. Comput Human Behav 29, 1841–1848 (2013).
※5:Andreassen, C. S., Pallesen, S. & Griffiths, M. D. The relationship between addictive use of social media, narcissism, and self-esteem: Findings from a large national survey. Addictive Behaviors 64, 287–293 (2017).
※6:Kross, E. et al. Facebook Use Predicts Declines in Subjective Well-Being in Young Adults. PLoS One 8, (2013).


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