特集1 家族まるごとって何ですか?(185号)


特集1
家族まるごとって何ですか?(185号)

※「こころの元気+」2022年7月号より
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著者:横山惠子
(横浜創英大学 看護学部)

 

家族まるごと支援

「家族まるごと」支援という言葉は「リカバリー全国フォーラム」の家族支援の分科会から生まれました。
特に、2017年度から3年間は、地方版分科会も開催し、「家族まるごと支援と家族のリカバリー」として、札幌から沖縄まで、全国7か所を訪問しました。

精神障がい者家族である親・きょうだい・配偶者・子どもの立場の方々から、それぞれの困難とピアサポートの実践を語っていただき、地域の支援者も交えて家族のリカバリーや家族支援について考えました。

 

同居が多い日本の特徴

日本では、諸外国に比べて、家族と同居する当事者が多いのが特徴です。
家族会の調査によれば実に76%の当事者が家族と同居し、家族は服薬管理など、日常的なケアを行っていました。
サービスを何も利用していない当事者が44.5%存在し、就労している人は8.6%と本当にわずかです。

回答した家族の多くは、自分自身の健康や高齢化への不安をかかえながら日常的なケアを行っていました。
この状況は、家族の疲弊と共に、本人の回復を遅らせ、ひきこもりや家庭の中の暴力など、さまざまな問題を引き起こしています。

 

3つの意味

「家族まるごと」支援には、3つの意味があります。

①支援されるべき存在
1つ目は、家族は「介護者としての存在」ではなく、家族もまた生活者であり、「支援されるべき存在」だということです。
家族支援の必要性を、社会に認識してもらいたいという意味があります。

②さまざまな立場
2つ目は、家族というと「精神疾患のある子どもの親」をイメージしてきましたが、家族には、きょうだい・配偶者・子どもと、さまざまな立場の家族があり、それぞれ異なった悩みをかかえているということです。

地方版分科会は、この視点でさまざまな家族の体験を語っていただき、家族の理解を深めました。
今後は当事者の親を中心とした家族だけでなく、結婚して家庭を持ったり、子育てをしている当事者の家族という新たな枠組みでも捉えることが必要です。
昨今、「ヤングケアラー」としての子どもへの関心が集まっています。
(※ヤングケアラー:大人が引き受けるような家事や家族の世話などを行っている18歳未満の子ども)

親子を分離することなく、病気の親・配偶者・子どもという「家族まるごと」の支援が不可欠なのです。

③関係性への支援

3つ目は、家族内の関係性への支援です。
家族と関わり、強く感じているのは、当事者・家族それぞれが、互いを大切に思っていながらその思いがすれ違っている現状です。
家族でありながら、いえ、家族であるが故に、相手に求めすぎたり、正直な気持ちを話せなかったりします。
親は当事者に集中するあまり、他のきょうだいの気持ちには気づきにくいです。

当事者と家族のすれ違いは、家族内の断絶を生み、当事者の家庭での暴力にもつながります。
第三者が入って家族それぞれの思いを代弁するだけで、家庭内のコミュニケーションが生まれ、家族の関係性が改善します。
イギリスの「メリデン版訪問家族支援」は、訪問で当事者と家族に支援を届けるファミリーワークであり、まさにこれにあたります。

支援者に関係性への支援を意識してもらえるだけで、家族内のコミュニケーションが生まれ、家族の関係性が変わります。
いつまでも「家族が家族でいられる」支援をしてほしいという願い、それが家族の関係性への支援であり、「家族まるごと」支援という意味です。

しかし家族には、問題を家族だけで解決しようと、家族自身が第三者の介入を避け、孤立しやすい傾向があります。
家族だけでかかえこみやすい現状を変えるには、社会と共に、家族自身の意識改革が必要だと考えます。

 

家族支援とは

家族支援は、当事者と家族のリカバリー支援です。
家族のリカバリーとは、当事者の病気の状態がどうであろうとも、家族自身が希望を見出し、自分なりの生きがいや生活を取り戻すことです。
それは苛酷な現実があるからこそ得られる、価値ある人生を見出すプロセスであると考えます。
「家族まるごと」支援を、改めてよろしくお願いします。

 

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