うつ病と双極性障害(躁うつ病)との違い(Q&A)


「こころの元気+」2019年12月号(154号)より 
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第16回 双極との違い
うつ病と双極性障害のうつ状態との違いは?

 

質問

私は双極性障害をもっています。 Ⅱ型なので、うつ状態が長く続くこともあれば、軽躁状態になることもあります。
双極性障害は一生つきあっていくものだから、診断名を聞いたときに覚悟しました。

ふと考えたのは、うつ病は「心の風邪」などと呼ばれ、短期で回復する場合もあるといわれていますが、ずっとうつ状態が続く人は、本当にうつ病なのでしょうか?

ある人は、かれこれ10年以上うつ病と言われていて、自分自身でもうつ状態がずっと続くと言っています。
ですが、活発に外に出て動いているときがあります。
その姿を見ていて、「本当にうつなの?」と疑問に思います。

うつ病と双極性障害のうつ状態とは、どのように違うのでしょうか?
また、抗うつ薬を使うと躁転する(躁状態になる)ことがあるといわれていますが、
双極性障害ではないうつ病の人でも、そうなることがあるのでしょうか?
うつ病の気分のよさと、双極性障害の軽躁とは、どのように見分ければよいのでしょうか?


回答黒川常治さん


僕はうつ病と診断され22年以上が経ち、いまだに波があります。
うつ状態がひどくなり身体を動かせずにいるときもあるし、気分よく軽快に過ごし、ちょっとした旅に出かけられるときもあります。

僕が調子いいときは、どう見えるのでしょうか?
躁状態とは言われませんが「うつ病に見えない」とはよく言われます。
あまりネガティブな言葉を出さず、人前で笑顔でいるのが染みついているせいでしょうか。
親御さんからも、「黒川さんに比べて、ウチは…」みたいなことを言われます。

でも僕自身、うつのときはそれなりにしんどいんです。
これは比べることはできないと思います。

うつ病や躁うつ病(双極性障害)を短期間で見分けるのは医師でさえもむずかしく、そもそも病名は、そのときの医師の見立てであって、伴う症状やその期間は多様なんだと思います。
その見立ても、研究途中だったり、未解明な部分もあるうえでのことです。
将来、僕が躁うつ病と診断される可能性はゼロではないでしょう。

患者側は診断名がとても気になりますし、ふり回されます。
また、回復のめやすを探す軸のひとつにもなります。
ただ、そのジャッジは信頼できる医師にまかせて、ご自身の体調と向き合ってみてはいかがでしょうか。


黒川常治さん(くろかわ じょうじ)プロフィール:
うつ病患者。現在、ピアスタッフ、グラフィックデザイナー。今はどんな要素がリカバリーにつながるか探求し、ピアスタッフがどのような存在かも研究しています。著書『焦らない, でも諦めない』。


回答菊地俊暁先生

うつ病なのか双極性障害のうつ状態なのか、というのはとてもむずかしい問題です。

ある海外の調査によれば、双極性障害の半分くらいの方は診断がつくまでに5年以上かかった、と報告されています(Hirschfeld, 2003)。
10年経って日本でも調査してみたのですが、ほとんど同じような結果でした。

理由はいくつかありますが、双極性障害の方は発病されて以降、多くの時期をうつ状態か症状なしで過ごしますので、病院にはうつ状態で来ることがほとんどです。
なので、過去にあった躁状態が明らかでなければ、初めはうつ病との診断になるわけです。

 

どのように見極める?

ご質問の方のように、活発な状態があることで躁状態を疑うのも一つです。
病気になる前と比べて元気すぎないか、そしてそれが一時期のものではなく、数日以上連続していなかったか、というのがポイントです。

ただし、うつ病の方がよくなってくると、一時的に元気になりすぎて躁状態のように見えることがあります。
病気がよくなってきたことで、これまでできなかったことに意欲的に取り組んだり、新たなことにチャレンジしてみたりという、正常な心の動きだと理解できます。
なので、意欲以外の睡眠や頭の回転、実際の行動などを総合的に判断する必要があります。

うつ状態のときに見極めができないのか、ということも関心事だと思います。
若くして発症し、頻繁にくり返している方や、眠りすぎたり食べすぎたり(過眠・過食といいます)、あるいは体が鉛のように重いといった症状がある場合には、双極性障害の可能性を考える必要があります。
これだけで決めつけてしまってはいけませんが。

なお、薬剤によって躁転した(躁状態になった)場合には、双極性障害とみなして治療されていくことが多くなりました。
これはもともと躁状態の素地があった、という仮定にもとづくものです。


病状の安定

いずれにしても、診断が違えば治療方針も異なっていきますが、最も重視すべきは(双極性障害にしろ、うつ病にしろ)病状が安定することだと思います。
なかなか安定しないときは、
「薬剤が合っていないのではないか?」
「生活スタイルや周囲の環境に、問題はないのか?」
「安定に働くような、心の支えや助けになるものはないのか?」
ということを考えていくのが大切ではないでしょうか。
さまざまな角度から病とのつきあい方を考えていけたらよいなあと思っています。

 

菊地俊暁先生(きくち としあき)プロフィール:
慶應義塾大学病院勤務。認知行動療法研修開発センター理事、日本精神神経学会精神療法委員会委員。【関心を持っていること】個人におけるリカバリーとは何か、適切な治療をめざすにはどのようなことが必要か。大のスポーツ好き。

 

▲過去の連載:うつ病Q&A「うつむいていてもリカバリー」より→くわしくはコチラ

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