娘が生き甲斐の母(Q&A)


「こころの元気+」2013年1月号より


Q 母の生き甲斐にとまどいます

私は、40歳になる女性です。10年来うつ病でつらい思いをしています。父は他界し、母親と2人で暮らしています。
私の悩みは、母が私の面倒を見ることを生き甲斐にしていることに気がついてしまったことです。たしかに私は働くこともできません。寝ていることが多いです。家にいれば、母がすべてを整えてくれます。だから、衣食住の心配はまったくありません。しかし、それは、「現在」の問題でしかないのです。これではいけない、自立しなくてはと思い始めました。
「障害年金をもらってひとり暮らしをしてみたい」と母に話したところ、喜ぶと思いきや、意外にも母は泣き出してしまいました。よくよく話し合っているうちに、母は、どうやら私の面倒を見ることが自分の役割だと感じるようになり、それが生き甲斐になっているようなのです。そのことに気がつき、「お母ちゃんに申し訳ないなあ」という思いが募ってしまいました。それで、「私のことばかりに気をつかわないで、お母ちゃんも楽しんでほしい」と言うと、「あんたが苦しんでるのに、そんなことできない」と言うばかりです。
病気のわが子を思う母の愛情はありがたいのですが、何かこの関係は悪循環のような気がしてしまいます。母のためにも、今のままがよいのか、それともこうした関係を変えたほうがよいのかわからなくなってしまいます。


A 子どもの行動が私を変えました/手風琴さん(東京都)

私も同じ母親の立場なので、あなたのお母さんの気持ちがよくわかります。私は120歳まで生きて娘を看取ってから死にたいと思っていました。それが無理ならせめて100歳まで生きて「一緒に死のうね」と言っては、娘に「いやだよ」と呆れ顔で拒否されていました。
過去形なのは、私が「親のしてあげることには限界がある」と気づいたからです。どんなにがんばっても親は先にいなくなります。
子どものためにすることは、子どもの面倒を見続けることではなく、子どもを親以外の人間とつなげておくことだと気づいたんです。この場合の人間とは、医療、福祉行政、そして子どもと同じような病気の仲間たちです。
私の気持ちが変わったきっかけは、子どもの言葉や態度からでしたよ。
あなたと同じように、「自分の楽しみはないの?」とか、「普通の親は、友達と旅行や食事をしているのに、毎日子どもの病気とつきあってばかりじゃだめだよ」と語りかける娘の言葉を、初めは拒絶されていると感じて悲しかったのですが、自分のことは自分でやろうとし始めた娘の行動を見守るうちに、私の肩の力が抜けていきました。
一時はさびしいけれど、がんばろうとしている子どもの姿は必ずお母さんの心を動かすと思います。「何が子どもにとって最良なのか」どの親たちもそればかり考えているのですから。
あなたの場合、まずは体調のよいときに1人で近くの保健所を訪れて、地域の担当保健師さんに相談することから始めたらいかがでしょうか。
いきなりひとり暮らしではなく、まずは障害基礎年金をもらうべきかと思います。わが家も、地域担当の保健師さんには親子で本当にお世話になっています。お母さんが老いていく前に、ゆっくりでいいから、あなた自身の行動でお母さんを安心させてあげたらいかがでしょうか。ちょっとがんばって一歩踏み出すことで取り巻く景色が変わり、流れはよい方向に動き出すはずですよ。
だいじょうぶ、あせることはないから、お母さんのためにも自立への道を歩き出してみてください。


A 自分のために/ひまわりさん(長崎県)

私は45歳で、統合失調症もしくは躁うつ病と診断されて、20年くらい働いたり、働けなかったりして、今はアルバイトをしています。
私には兄妹がいますが、それぞれ結婚して独立しており、現在80代の父と70代の母との3人暮らしです。私の母も、私の病気のことでとても苦しんできました。私は死んでしまいたいと思った時期が何度もありました。私が受診したある日、帰りがけにも「死にたい」と私がもらすと、それを聞いた母は病院まで引き返しました。そして、ドクターと何か話をしていました。
その日から、母はテレビで時代劇や野球を楽しんだり、ときどき映画を観たり、好きなことをするようになりました。ある日、「私がこんなに苦しんでいるのによくテレビとか見ていられるね」と言うと、母は打ち明けくれました。それは、あの日ドクターに母も「死にます」と訴え、「あなたが死んだら娘さんはどうなるのですか」と叱咤されたらしいのです。
もし、相談者さんがお母さまに自分の人生を大事にしてほしいと思うのであれば、自分のためにそうしてほしいと伝えるのはいかがでしょうか。ドクターに相談して、ドクターから話してもらうのも手だと思います。