典型的な事例と対処法1


精神科を紹介されるときは、いろいろな身体症状の原因が他の科では治らなかった場合です。いろいろな可能性を否定した後、初めて精神科にかかることにしましょう。

精神科にかかる前に、たいがいの人がすることは以下のようなことです。
いろいろな人や医師に精神科に行くべきか相談する
精神科の知識を集める
紹介された病院の情報を集める

初めて精神科にかかってみると、「おや」と思うことがあります

主治医が、世間を知らないので、困ってしまう

そこで、このように対処することもできます。
通院する病院を代えることも可能です

精神科にかかって、はじめの頃は外来ですみます。
薬を処方されたら、決められた分だけ飲む
薬を飲むと体が辛くなるので、それを主治医に訴えて、自分にあった薬を探してもらう
次の予約を入れられることが多いので、その時には通院する

精神科の初診では、どんなことを聞かれて、どんな風に振る舞えばいいのでしょうか。
睡眠や過ごし方について聞かれます
精神科の症状と思われることを素直に話します
精神科と関係ないかもしれない症状についても話します
ここのところどうやって過ごしているか、話します
気圧や気候の変化と体調について話します

それから、精神科でも症状や薬物療法にともなって必要になる検査があります。こちらから依頼しないとしてくれない場合があるので気をつけましょう。
血液検査、血圧の検査をしてもらうよう依頼する

それでは経験談を「こころの元気+」の特集から見てみましょう

筆者の所属は執筆時の所属先です。


自分の中にある力を発揮させる

北海道/とかちWRAP研究舎T—WRAP

鈴木司


振り返れば

一〇年ほど前のことですが、僕は両親に連れられて精神科病院を訪れました。
診察した医師と何を話したのか、今となっては思い出せません。促されるままに診察室を出て、看護師の後をついて行くと、そこは閉鎖病棟でした。
なんとなく薄暗く、湿った空気を感じました。もうこれで僕の人生も終わってしまった、と思ったのを覚えています。
閉鎖病棟に半年、開放病棟に一年間入院していました。その間、ほとんど誰とも話さずに寝てばかりいました。そのせいで、床ずれができてしまいました。
診断名は、退院してしばらくして自分から尋ねました。処方されている薬からうすうす気づいていましたが、主治医から言われると、やはりちょっとショックでした。
当時はまだ統合失調症ではなく、精神分裂病と呼ばれていたのです。


回復に向かって

退院後しばらくは、家から出るのは外来通院のときだけでした。
主治医からデイケアに通うようすすめられ、言われるがままに通い始めました。でも、行っても行かなくても誰も困らないので、サボりがちでした。
あるときスタッフから、「バンド始めようかと思うんだけど、一緒にやらない?」と誘われました。高校時代にバンドを組んでいたので、キーボードとして加わりました。
また別のスタッフから、「デイケアで新聞つくってみない?」と誘われました。
もともと文章を書くのが好きだったので、編集長的な立ち回りをするようになりました。
スタッフは、僕の病気の部分ではなく、できるところに注目してくれたのです。


知るということ

自分の病気のことについて理解を深めるために、僕は病気についての書物をあさるようになりました。
僕の場合は書物を求めましたが、他にも方法は、人それぞれあると思います。
料理を覚えるためには書店でレシピ本を買うという方法もありますが、誰かに手取り足取り教えてもらってもよいでしょう。
それは同じ病気をした仲間かもしれませんし、あるいは主治医かもしれません。


主治医とつきあう

主治医とうまくつきあうということは、そう簡単なものではないかもしれません。
人とうまくつきあうコツは、「立場をかえて考えてみること」だと思います。自分が医者だったら、どんな患者に対してはもっと親身になれるだろうか、とか…。
今、僕は月に一回主治医に会っています。こちらから訴えることはそんなにないので、いつもは短い面接時間ですが、ここぞというときにはじっくり話をしています。


自転車をこぐように

生きていくことは、自転車を自分でこいでいくようなものだと僕は考えています。
上り坂もあれば、下り坂もあるでしょう。病気になるということは、人生の下り坂でハンドル操作を誤って、転倒したようなものだと思います。
人は痛い思いをして、もう二度と自転車に乗るものかと思ってしまうかもしれません。
でも時間がたつと、もう一度自転車に乗って出かけてみようかと思えるようになるものです。
皆さんは子どもの頃、どのように自転車の乗り方を覚えたでしょうか。はじめは補助輪のついた子ども用の自転車で練習をして、そのうち補助輪をはずして親に後ろを押さえてもらいながら練習したことでしょう。何度も転びながらも。
大人になって、しばらく自転車に乗らない時期があっても、体では覚えているものです。ただ、しばらく乗っていなかった自転車は、ところどころさびついているかもしれません。さびを取って油をさす必要があると思います。


薬とつきあう

薬は、自転車にさす油のようなものだと思います。たくさんさす必要はありませんが、ちょっとさしてみると思いのほか軽やかになるものです。
処方されたとおりに服薬するために、生きているわけではないのです。処方されたとおりに服薬すると、ちょっぴり生きやすくなる、と思って僕は薬とつきあっています。
今は、ほとんど副作用を感じていませんが、副作用に悩まされた時期もありました。そんなとき僕は、「病気の症状があらわれて再入院するよりは副作用のほうがまだいい」と思っていました。


援助専門職とつきあう

ひさしぶりに自転車に乗ろうとすると、少しふらつくかもしれません。そんなときは、スタッフに自転車の後ろをちょっと押さえてもらうのも、ひとつの方法でしょう。

でも、自転車をこぐのはあくまでも自分です。まずは、自分のできる限りの力でペダルを踏み込んでみましょう。そうではないと、支えている方もたいへんです。

援助専門職に支えてもらうことを、依存的ととらえる人もいるかもしれません。でも、ハンドルを握っているのは自分です。行きたい所へ、生きたい所へ向かって行けるのです。


ピアサポーターとして

僕は今、デイケアに通いながら、退院促進支援事業のピアサポーターの活動をしています。
退院促進支援事業は、精神科病院に入院している患者さんのうち、病気の症状は安定しているものの、それまで退院先などの条件が整わず、長期の入院生活を余儀なくされている方に対して、退院に向けて支援していこうとするものです。
この退院促進支援事業は、北海道では平成一八年度から展開されています。ピアサポーターとは、精神疾患を患ったみずからの経験をいかして、退院の支援をしようとするものです。
ピアサポーターの支援内容ですが、まず入院している病院からの外出同行ということで、一緒に路線バスに乗って、グループホームの見学に出かけたり、退院後の日中の活動の場として作業所などを見学します。
また退院が決まれば、一緒に市役所に行って手続きをしたり、引っ越しのために電化製品を買いに行ったり、ATMの使い方を一緒にしたり…といったことをしています。


さらなる人生を

僕は、ピアサポーターの活動をするまでは、精神科医療・福祉の利用者として、支援・サービスを受けるだけの人でした。
こうした援助する・援助されるという図式のなかで、どうしても自分自身を、援助を受ける「弱い人」、「できない人」と感じてしまうことがありました。
それが、ピアサポーターの活動を通して、自分のなかにも何らかの力があり、それを発揮できる機会があるということを日々感じられるようになりました。
ピアサポーターには、精神疾患を体験したもの同士による共感とか理解とか、もしかすると専門職にはない独自性が、少しはあるのかなぁと思っています。
しかし、それを実践するにあたっては、体験と想いを柱にしつつも、知識や技術を身につけるとさらによいのではとも思っていて、僕は一昨年の春から、福祉系大学の通信教育で精神保健福祉を学んでいます。
転ばないように足もとに気を配ることも必要ですが、下を向いて足もとばかりを見つめているからふらつくのかもしれません。
顔を上げて、もっと遠くをめざして行きましょう。More Lifeさらなる人生を!


こころの元気+29号より