あなたの退院 応援します(本人)


こころの元気+ 2011年8月号特集より


特集3
あなたの退院 応援します

Aさんとのある物語
北海道/鈴木司


ピアサポーターとしての活動

僕は今、デイケアに通いながら、地域生活移行(退院促進)支援事業のピアサポーターとして活動しています。
この事業は、精神科病院に入院している患者さんのうち、病気の症状は安定しているけれど、退院先などの条件が整わないなど、さまざまな理由で長期の入院生活を余儀なくされている方に対して、退院に向けて支援していこうとするものです。この退院促進支援は、北海道では平成一八年度から展開されています。

ピアサポーターとは、精神疾患を患った自らの経験を生かして、退院の支援をしようとする者です。
僕自身、一〇年ほど前に一年半の入院を経験しました。統合失調症の診断で、現在も通院・服薬をしています。
ピアサポーターとしてどのような支援をしているのか、これからお伝えしようと思いますが、個別の事例をそのまま書くのは守秘義務の関係でよくないと思うので、今まで支援してきた数名の方のエピソードを盛り込んだ、「ある物語」としたいと思います。

Aさんと私の日々

Aさん(四七歳・男性)は、一九歳で統合失調症を発病しました。数回の入退院をくり返し、今回の入院は九年になります。
地域生活移行(退院促進)支援事業の委託を受けている地域生活支援センターの精神保健福祉士とともに、僕は病棟を訪れました。

Aさんは、終始ふし目がちで、会話もあまりもり上がりませんでした。
「何か食べたいものとかありませんか?」と尋ねると、「寿司 …」とかぼそい声で答えたので、二人で回転寿司に行くことになりました。
病院の外に出るのも、路線バスに乗るのも久しぶりのAさん。
バスで運賃を払うときに戸惑うAさんに、僕は「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけました。回転寿司でAさんは。イクラの軍艦巻きが好みのようでした。
それから、Aさんと外出をくり返しました。美術館へ行ったり、ジーパンを買いに行ったり、カレーを食べに行ったりしました。

そろそろ退院を具体的に考えて行こうということで、一緒にグループホームの見学に行きました。ちょうど空きのあったグループホームを、Aさんは気に入ったようでした。
グループホームのお試し利用をくり返し、退院のめどがついたので、ホームセンターやリサイクルショップに一緒に行って、家財道具をそろえました。

退院後は、市役所での住所変更や生活保護などの手続きに一緒に行ったり、ATMの使い方がよくわからないというので、一緒に銀行へも行きました。
通院も、はじめのうちは、一人で路線バスに乗るのが不安だというので、一緒にバスに乗って病院へ通いました。
その後しばらくして、Aさんは再入院しましたが、短期間の入院で退院し、今はグループホームの近くにある地域活動支援センターに通っています。

「入院生活」という言葉を耳にしますが、入院は、「治療」であって「生活」となるべきではないと僕は考えています。
退院して、地域で自分の望む生活ができるように、これからも応援していきたいと思います。