ドアを開けてみませんか?(専門職)


こころの元気+ 2012年6月号特集より


特集6
ドアを開けてみませんか?
広がる訪問型の支援

NPO法人ほっとハート理事長精神保健福祉士
品川眞佐子


最近、「アウトリーチ」とか「訪問」という言葉を耳にすることはありませんか。
『こころの元気+』の「福祉をお届けします」のコーナーで、何度かアウトリーチでの届けるサービスについてお伝えしましたが(2011年1月号から6月号で連載)、その後もアウトリーチの言葉が全国で飛び交っています。

 

「アウトリーチ」とは

「アウトリーチ」とは、主に医療からの訪問支援を指しているようで、往診や訪問看護、ACT(包括的地域生活支援)がこれらにあたります。
これらは病院からの退院、そしてその後の地域生活を安定、継続するための支援になります。往診や訪問看護は医療での支援、ACTは医療と就労を含めた暮らし全体の支援です。

アウトリーチでの医療の訪問は、病状が不安定とか、精神疾患だけではなく他の疾患もある方とか、服薬管理がむずかしいと思われる方が利用されていると聞いています。
地域で家族と暮らす方、ひとり暮らしの方で外に出られないだけの方も大勢おられます。別に生活のしづらさはないけれど、病気の症状に変化があったり、災害や頼りにしている家族が病気になったりすると、不安がつのります。そんなとき、気軽に電話で相談できる病院やクリニックがあり、そこからアウトリーチ(訪問支援)が可能であれば、困ることはないのですが、現状はまだまだです。

しかし、福祉のアウトリーチ、訪問支援サービスは広がってきています。
医療、福祉の壁を越えて地域での生活を支えるサービスであり、その担い手で期待されているのがピア(同じ障害や病気をもつ人)の力です。
ご自身の経験をいかし、地域生活の先輩として、地域の情報をいっぱい持っているピアの活動が期待されるところです。

 

「訪問」とは

「訪問」は、事業者サイドではアウェー(相手のご自宅など)での仕事、利用者の方にとってはホームグランドでサービスが利用できるとご理解いただきたいと思います。

これまでも、ドアを開けていただけるまで時間がかかりました。見知らぬ者がホームグランドに入らせていただくのですから、ご本人にとってドアを開くことは、たいへんなことだと思います。

依頼者の多くは家族であったり、まわりの関係者の方ですが、ドアが開いてお会いしたいのはご本人です。「はじめまして」とごあいさつし、そこからゆっくりと時間をかけて一歩ずつ「信頼関係」を築かせていただくのが目標です。「信頼関係」は双方で感じるもので、一方通行ではありません。

最初に訪問させていただくのは、相談事業(行政、指定を受けた民間事業所)の相談支援専門員や相談支援員の方です。どんな方が来られるのか少し不安でしょうが、これらの相談支援にかかわる方は、ピアの方も皆、長い経験と研修を経ています。
そして訪問するのは、一人か二人ですが、所属する相談事業所では、多くの関係者がネットワークでつながり、バックアップで支えていますので安心してご利用ください。

「うちの家に、他人様があがってこられたのは三〇年ぶりだ」と親御さんから言われたことがありました。
この声が聞けたのは訪問して三回目でした。親御さんですら、最初の一回や二回目は緊張して何も伝えられませんでした。それどころか精一杯お迎えしてくださり、気をつかってぐったりされておられました。ご本人だけでなく、家族を含めた生活のしづらさを知るまで時間はかかります。

2012年度より相談支援事業の改正と充実がはかられ、相談支援事業所の看板を掲げる事業者も増えます。
アウトリーチのサービスを利用したい、今の生活のしづらさを訪問サービスで少しでも支えてほしいとお考えの方は、お住まいの市町村の窓口や相談支援事業所にまず相談ください。