発達障害って何?(医師)


「こころの元気+」2013年11月号(81号)より
※くわしくは →『こころの元気+』とは? 

いそべクリニック院長 磯部潮

発達障害とは?

 発達障害は身体的な発達の遅れを指すのではなく、生まれながらの脳の病気です。
 発達障害の大きな特徴は3点あります。 その中でも、社会性の障害、コミュニケーションの障害と呼ばれる2点が特に重要です。
これは簡潔にいえば「人づきあいがうまくできない」「他人と良好な関係を続けられない」という点です。
 そしてそれらの特徴によってもたらされる最大の問題は、「友人ができない」「仕事に就いても長続きしない」ということです。
 この問題は治療しなければ生涯にわたって継続します。さらに本人は、なぜそんな事態になるのかまったく見当がつかないまま、いたずらに時が過ぎてしまいます。
 もう一つの特徴は「こだわり」で、よく見られるのは「物への執着」です。 他人から見れば「どうして?」と思うような物であったり、過剰なまでの執着であったりします。
 このような特徴を有する発達障害の人は、常に「存在への違和感」「生きづらさ」を感じています。 それだけでも不幸なことですが、彼らはそれを自覚できず、さらには「他人と何かが違う」ことを、「努力が足りない」「人間としてなっていない」と責められ続けています。
 このことは本当にひどい状況だと私は感じています。もちろん、努力が足りないわけでも自覚が足りないわけでもありません。発達障害の人は、本質的に、その人の脳の構造的な問題としてその特徴を有しているのです。
 また、発達障害はそのまま「発達障害」と呼ばれることもありますが、「自閉症」や「アスペルガー症候群」などさまざまな分類があります。症状などの特徴によって診断名が分かれますが、同じような特徴も数多く存在しています。

精神疾患との違い

 精神疾患と発達障害との最大の違いは、病態が現れる時期です。たとえば、うつ病はおもに中年期、統合失調症はおもに青年期、パニック障害・社交不安障害・解離性障害などの不安障害は比較的若年期に発症します。
 一方で、発達障害は脳の病気であるがゆえに、幼少期から病態が現れてきます。そして、その特徴が生涯にわたって継続することです。
多くの発達障害の人は、1歳半健診、3歳児健診のときにその特徴を保健師によって指摘されています。さらに軽症の人でも、幼稚園や保育園で指摘されたり、少なくとも小学校でその特徴が顕在化しています。
 また精神疾患は、生物学的、遺伝的、器質的な病気である部分も大きいのですが、発症のきっかけとして何らかの外的な要因、つまり心理的な因子が関与しています。
 すなわち精神疾患は、生涯で発病が避けられない事態であっても、少なからず心理的な要因を考慮すべきであるのに対し、発達障害は、すでに生まれながらにして、その障害を背負わされているのです。

治療はどうするのか

 これまで触れてきたとおり発達障害の人の特徴は生涯変わることはなく、「他人の気持ちが理解できない」「その場にそぐわない発言をする」こと等で円滑な人間関係を築くことが困難です。
 しかし、彼らの脳は他人と違っているからこその能力も多く持ち合わせています。その1つが記憶する能力です。それほど意味に関連のない事柄でも正確に記憶することが可能です。そしてひとたび記憶すれば、正確にくり返し何度でもそれを再現できるという特徴を有しているのです。
 これを治療に生かすのです。すなわち人間関係の「パターン認識」を記憶して、それをその場で再現すればよいのです。
 「こういうときには、このようにふるまえばうまくいく」「この場ではこういう発言をすれば、人とのコミュニケーションが円滑に進む」という成功体験を「パターン認識」することで、彼らの持つ特徴を克服すればいいのです。
 もちろん簡単なわけでも、一朝一夕に身につくものでもありません。しかし、できないわけではなく可能なのです。 そして、できれば早期に発達障害であることを周囲が理解し、早期に治療を始めたほうが、この「パターン認識」を数多く身につけられるのはいうまでもありません。大人と違い子どもは自然なふるまいとして「パターン認識」を習得できるのですから。

生きづらさ

 発達障害の人の生きづらさは、障害であることへの周囲の無理解に尽きます。
生まれながら社会的なハンディを背負わされた人(もちろん、彼らの中には発達障害であるがゆえの大きな能力を持った人も数多くいるのですが)に対して、「努力が足りない」というのはあまりに的外れと言わざるをえません。
「わからないもの」は生涯「わからない」のです。 この現代社会に発達障害の理解が少しでも進むことで、発達障害の人が少しでも「彼ららしく」生きることができるようになることを願ってやみません。