抗精神病薬の減薬(医師)


こころの元気+ 2014年11月号93号 特集5より   →『こころの元気+』とは 
抗精神病薬を減薬したほうがよいか、考えてみませんか?

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
社会精神保健研究部社会福祉研究室長 山之内芳雄


はじめから質問です。
①皆さんが毎日のんでいる「薬」、1日に何錠のんでいますか?
②その中でどれが抗精神病薬かごぞんじですか?
③他の薬は何のためにのんでいる薬ですか?

私が担当している外来の患者さんに聞くと、①はほとんどの人が答えてくれますが、②と③はほとんどの人がわからないと答えます。

では次に、②で答えた抗精神病薬がたくさんある方にさらに質問です。
④その抗精神病薬は何種類ですか?

皆さんは頭が痛いときに頭痛薬をのむことがあるでしょうが、頭痛薬を3種類も4種類も一緒にのみますか? たとえば、バファリンとセデスとナロンとロキソニンと…を一緒にのみますか?
たぶん、のむ人はほとんどいないかなと思います。

抗精神病薬は、昔はなかったような感覚や考えを落ち着かせてくれます。また、イライラした気持ちをしずめたり、考えがすぐに混乱してしまうのを整えてくれたりもします。
病院やクリニックや薬局の先生は(強い)安定剤と言ったりします。精神病の状態といわれるさまざまな症状に抵抗する薬なので、抗精神病薬と呼ばれていますが、少ない量ですと、気分を安定させたり、憂うつな気分を落ち着かせてくれるので、統合失調症の患者さんだけではなく、躁うつ病や、うつ病、神経症など、いろいろな病気にも使われています。

多くの抗精神病薬

日本では、現在30種類以上の抗精神病薬が発売されています。
そもそもはじめに発売された抗精神病薬はクロルプロマジンという名前なのですが、もし、それが万能薬だったら、すべての患者さんがこのクロルプロマジンをのんで、みんなに効くので、他の薬は開発されなかったかもしれません。
でも、抗精神病薬は万能ではないのです。ある人はすっかりよくなったのに、別の人には全然効かなかったりします。それで科学者がいろいろな抗精神病薬を開発し、30種類以上になってしまいました。つまり、まだまだ全員に完璧な抗精神病薬はないのです。

最近開発された新しい薬は、非定型とか第二世代とか呼ばれ、副作用が少ないといわれています。
また、「力価」というもので2つに分類する方法もあります。

表の薬(商品名)の横に、高と低が書いてありますが、これはその力価による分類です。
高と低では、薬の化学構造がわりと違っていますから、効き方や副作用の出方が一般的に違っています。なので、高と低を組み合わせて、その人にとって効果があり副作用が少ないようなちょうどいい効き目が出ることもあります。

でも、力価で分けても世代で分けても、抗精神病薬は大きく2つのグループしかありません。そのため、3種類も4種類も、あるいはそれ以上のんでいるとしたら、それは「少し多いかな」と思います。

2013年発表の論文では、抗精神病薬を3種類以上のんでいる統合失調症の患者さんは、入院患者で42%、外来患者で19%いるという調査がありました。多くの人が3種類以上の抗精神病薬を毎日のんでいるのです。

ここで、はじめの質問に戻り、質問②に答えてみましょう。
皆さんがのんでいる薬に説明書の紙はついていますか?
もしついていたら、そこに書いてある名前を表で調べてみましょう。
最近はジェネリック薬があるので、表に全部を載せきれませんでしたが、わからなければ、今度薬局で薬をもらうときに勇気を出して聞いてみませんか。
また、説明書をもらっていない人は、今度の診察で先生に「薬の説明書がほしい」と頼んでみませんか。
言えなかったり、面倒なときは、錠剤に小さく書いてあるコード番号を頼りにして「おくすり110番」などのインターネットで調べることもできます。
こうやって皆さんが何種類の抗精神病薬をのんでいるのかが、わかったとしましょう。

では、その結果、もし3種類も4種類ものんでいたらどうすればいいでしょうか?
「こんなに薬をいっぱいのませていたなんて腹が立つ!」「勝手にやめてしまえ」と思ったら、それは早合点です。

実は、薬を急に減らす(やめる)と、人によりますが、はじめはスッキリしても数日もすると次第に昔あったような症状が出てくることが多くあります。
また、不眠、ふらつきやめまい、動悸、便通の変化など体の症状が出てくることがあります。減らしてみたら、かえって体の具合が悪くなることがあります。
また、ひと月もすると自分ではわからないうちに病気が進行して、長い目で見ると寛解(なおった状態)から遠ざかってしまうこともあります。

抗精神病薬を減らすには

では、たくさんのんでいるとわかったらどうすればいいでしょう?  仕方ないことなのでしょうか?
答えは、NOです。

私たちの研究グループでは、平均で31年間の長い間、多くの抗精神病薬をのんでいた163人の統合失調症の患者さんに協力いただき、薬を「とてもゆっくり、一種類ずつ」減らしていきました。
その速度は、たとえば一週間で一番小さい錠剤を3分の1に割るくらいのとても微量な減らし方です。しかも薬によってその減らす速度が違います。
また、減らしてみて、具合が少しでも悪くなったり、心配になったら、そのまま減らすのをやめたり、戻したりもしました。
ちょっとだけご飯を減らすような、無理のないダイエットみたいです。絶食したり、○○だけのような極端なダイエットだと、はじめはやせても、その後体調が悪くなったりして失敗することが多いですよね。薬を減らすのもそれと同じです。

さて、研究の結果ですが、ゆっくりした減らし方で調子が悪くなってやめた人は10%いませんでした。
結果的に半年で20%くらい薬を減らせて、しかし調子は変わりませんでした。残念ながらよくはなっていません。でも、悪くならなかったのです。
また、減らすのを続けるか、休むかなどの判断は主治医がしました。血液検査や心電図もしながら、だいじょうぶかどうか慎重に観察しました。

残念ですが、世の中には本当に、4種類も5種類も抗精神病薬をのまないと、簡単に調子を崩す人もいます。
たくさんの薬に体が慣れてしまい、脳内の仕組みが薬を減らすことにとても敏感になってしまう体質の人がいると報告した論文もあります。
また「私は薬を33錠のんでいるから安定している」という暗示効果みたいなものが無意識に染みつき、減らしたくて1錠減らして「32錠」になったら、その暗示のせいで調子を崩してしまう人もいます。
あるいは、自分は減らしてもいいと思っているけど、母が反対して、減らしたら、母が毎日「だいじょうぶか?」と心配するので、自分も心配になり調子が悪くなったなんてことがあるかもしれません。
薬をのんでいるということには、こういった生物的、心理的、家族的などいろいろな条件がからんでいるのです。

2014年の10月から、診療報酬の改定で厚生労働省は(例外はありますが)4種類以上の抗精神病薬を処方することが減点対象になることにしました。
これは、一律に4種類以上の抗精神病薬処方を禁止するのではなく、4種類以上処方するきちんとした要件や判断が、精神科の先生に求められるようになったのです。
もし、抗精神病薬を4種類以上のんでいるならば、何らかの理由や経緯があったと思います。そういった情報をみんなで共有することで、ともすると今の処方の見直しや、減らすことが選択肢になるかもしれません。
※2016年度からの診療報酬の改定では3種類以上の抗精神病薬の処方が減点対象になりました(例外あり)。

伝えたいこと

私が抗精神病薬をたくさんのんでいる皆さんに伝えたいことは、主治医や薬局の先生、あるいは身近なスタッフの方、そして家族、仲間と一緒に薬について考えてほしいのです。
いろいろな条件がからんでいるかもしれないので、「薬を減らしたい」と唐突に言って「はい、減らしましょう」と簡単に減らされては、かえって危ないことが潜んでいるかもしれません。
さらには、主治医の先生が混んでいて忙しいとか家族に言っても面倒くさがられるかもしれません。

でも、いろいろな条件をみんなで理解して、減らせる可能性があるかもしれません。
その第一歩が、まず「自分の薬はどんなもので、抗精神病薬はその中のどれで何種類か」を知ることです。
また、たとえば「○年前はすごく具合が悪くて、それで今の薬になり、それから初めて調子がいい」とか「○年前主治医だった先生が、特に何も言わずに薬を増やした」など、自分の薬の思い出をたどって多くの情報を用意することも助けになります。

情報がそろったら、それを「伝える」ことです。なるべくまとめて、メモなどに書いて伝えるといいかもしれません。また、家族とよく話し合って、家族に伝えてもらうのも方法です。
「今、私は○種類の抗精神病薬をのんでいると思いますが、それぞれの薬は何のためにのんでいるのでしょうか。それぞれ私に違った効き目をするのでしょうか。教えてほしいです」と伝えてみませんか。
自分がなぜ薬をのんでいるのかを理解するのは、きっと皆さんのためになると思っています。

疑問がスタートに

私が今診ているある患者さんは、1年で薬が35錠から20錠になりました。
ゆっくりゆっくり、時には私が制止しながら粘り強く減らしました。途中具合が悪くなったときもあり、そういうときは薬を戻して対応しました。
会うたびに、昼間の眠気が減り、自分らしい病気になる前の感覚が戻ってきたと好評で、家業の手伝いに加え、将来に備えて図書館で集中して読書する練習を始めました。
この方の場合、患者さん自身が薬をなぜのんでいるかを考えること、疑問を持つことからのスタートでした。
皆さんも、ちょっとがんばって自分の薬を調べてみましょう。そして、なぜのんでいるのか、考えてみませんか?
☆他の薬の量についての情報は→ネット特集3「薬の量の話」

☆薬を急にやめた体験や離脱についての情報は→ネット特集6「減薬・断薬・離脱」

※「こころの元気+」の離脱の特集→2016年5月号特集「知っておきたい離脱症状」


引用文献:奥村 泰之, 野田 寿恵, 伊藤 弘人, 日本全国の統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターン ナショナルデータベースの活用: 臨床精神薬理16; 1201-1215, 2013
木村 大, 金原 信久, 伊豫 雅臣ら, 治療抵抗性統合失調症に対するリスペリドン持効性注射剤の効果(中間報告): 日本神経精神薬理学雑誌33, 85-87, 2013
Sukegawa T, Inagaki A, Yamanouchi Y, et.al., Study protocol: safety correction of high dose antipsychotic polypharmacy in Japan. BMC Psychiatry. ;14:103,2014
Yamanouchi Y, Sukegawa T, Inagaki A,et.al., Evaluation of the individual safe correction of antipsychotic agent polypharmacy in Japanese patients with chronic schizophrenia: validation of safe corrections for antipsychotic polypharmacy and the high-dose method. International Journal of Clinical Neuropsychopharmacology; in press. doi:10.1093/ijnp/pyu016