特集2
病院の中で守られなかった当事者の権利 (233号)
○「こころの元気+」2026年7月号より
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筆者:佐藤光展
医療ジャーナリスト
OUTBACKプロジェクト 代表理事
▼映画の監修で
ここ数年の間に、私は精神医療を扱う映像作品の監修を複数依頼されました。
この原稿を書いている今年(2026年)4月には、著名なベテラン俳優や若手人気俳優が出演する映画がクランクインしました。
現時点では映画のタイトルや俳優の名前を明かせませんが、主人公は「精神科病院に40年閉じこめられ、大地震を期に解放された男性」です。
精神医療国家賠償請求訴訟の原告をつとめた伊藤時男さんの体験によく似ていますが、この映画がおもに描く退院後の生活ぶりは、まったく異なります。
ただ、私は台本の修正中に、入院していた頃の伊藤さんの心境を何度も想像しました。
「どのように演じたらいいのか」と悩む主演俳優に、伊藤さんから聞いた話を伝えたりもしました。
私が主演俳優に特にお願いしたのは「チャーミングに演じてください」
伊藤さんを始め、私が出会った患者の多くがやさしくチャーミングだからです。
▼超長期入院の理由
日本ではなぜ、超長期入院が成立したのでしょうか。
複数の看護職が入院患者を撲殺した報徳会宇都宮病院(1984年事件発覚)のような病院ばかりならば、入院患者の多くはもっと短命だったはずです。
語幣(ごへい)を恐れずに言うと、患者達は各病院の固定資産として、生かさず殺さず状態で飼い慣らされたのです。
ほとんどの入院患者は最初、早く退院したかったはずです。
しかし、大半は入院生活に慣れていきました。
昔の病院では、院内の雑用を率先してこなすと看護職にほめられてタバコや給食を多くもらえました(当時はタバコが院内通貨)。
病院によっては、趣味の時間や買物、団体旅行の機会も与えられました。
伊藤さんは俳句や絵の創作に取り組み、買物や旅行にも行きました。
そして、「社会に戻るのは怖い。このままでいいや」と退院をあきらめる施設症におちいりました。
ベッドを埋め続けたい病院の思う壺です。
▼精神科の入院
そもそも、強制入院は身体の自由を奪う行為であり、著しい人権侵害です。
ただ、外科医が手術で患者の腹を切り裂いても罪に問われないように、精神科では「治療のため」という大義名分で、隔離などの行動制限が限定的に認められています。
でも、患者達は本当に強制入院や強制投薬が必要な状態だったのでしょうか。
近年、精神科では家族などの同意で行う強制入院(医療保護入院)が急増し、2022年には任意入院(本人の同意がある入院)の件数を上回りました。
他の診療科ではインフォームドコンセント(説明と同意)や共同意思決定があたりまえなのに、精神科だけ当事者は蚊帳の外なのです。
強制入院は患者に新たなトラウマを与え、症状を悪化させます。
入院させた家族との関係も悪化します。
人間をやすやすと強制入院させる病院が、入院した者の人権に配慮するわけがありません。
面会やスマホ使用は制限され、
医療職に口答えすると「隔離拘束だ」とおどされ、
「私は病気じゃない」と訴えると「それが病気の証しだ」と返され、
のみたくない薬までのまされるかもしれません。
行政の相談窓口に電話して人権救済を求めても、運に恵まれなければ助けてもらえません。
そして、
「こんな目に遭うのは自分が悪いからだ」
「私なんか生きる価値がない」と絶望し、回復に欠かせない自己肯定感を根こそぎ奪われます。
▼もっと声を
人権は他人まかせでは守れません。
自分の人権を守るのは自分自身です。
精神医療のさまざまな問題が一向に解消されないのは、患者自身が声を上げず存在感が著しくとぼしいからです。
医者と家族が勝手に入院を決めるという、世界に恥をさらす異常な入院制度を廃止に追いこめないのも被害者の声が足りないからです。
患者のあなたはきっと、精神医療に山のような疑問を抱いているはずです。
声を上げてください。
いびつな精神医療への社会的関心は間違いなく高まっているのですから。













