特集2 睡眠休養感が大切(193号)


特集2
睡眠休養感が大切(193号)

こころの元気+2023年3月号より
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筆者:吉池卓也
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部)

 

よい睡眠とは

よい睡眠とはどのような睡眠でしょうか。
科学的にきちんとした答えはまだ得られていませんが、体や心の健康を保ち、病気にかかりにくくする睡眠はよい睡眠といえるでしょう。

体や心の健康づくりには、栄養、運動、休養の3つが重要であり、このうち休養を支えるのが睡眠です。

それでは、どのような睡眠が健康づくりに役立つのでしょうか。

 

睡眠の物差し

睡眠はいくつかの物差しで表されますが、その代表が量の物差しである「睡眠時間」と、質の物差しである「睡眠の質」です。

●睡眠時間

寝床で過ごした時間から、寝つきにかかった時間や途中覚醒していた時間を差し引くことで、おおよその睡眠時間を把握できるでしょう。

睡眠時間の聞き取り調査により、成人では7時間前後の睡眠をとっていると、生活習慣病やうつ病にかかる危険性や死亡に至る危険性が最も低いと報告されています。
それでは、大人は皆、7時間の睡眠をめざすべきかというと、そうではありません。

なぜなら、必要な睡眠時間には個人差があり(⇨特集5へ)、年齢、季節、持病などの影響で変化するからです。
たとえば、Aさんはふだん6時間眠れば十分と感じ、Bさんは8時間以上の睡眠が必要と感じていたとすると、7時間の睡眠はAさんには十分でも、Bさんには不十分と感じられるでしょう。
ふだん7時間眠れば十分と感じているCさんも、心身のストレスが強い時期は7時間の睡眠ではぐっすり眠った感覚がとぼしいかもしれません。

●睡眠の質

このように、睡眠には良し悪しの物差しがあり、これが「睡眠の質」に相当するものです。
「昨日はぐっすり眠れた」
「この1か月はよい睡眠がとれている」
といった感覚は、主観的な睡眠の質を表しています。

現在のところ、睡眠の質を客観的に表す方法は確立されておらず、主観的な方法で数値化しています。

 

質の指標、睡眠休養感

睡眠の質の指標として、朝目覚めたときの睡眠で休まった感覚を表す「睡眠休養感」があります。
聞き慣れない言葉ですが、これは睡眠が「休養」という健康づくりに欠かせない行動を代表するものであることを示しています。

この睡眠休養感が損なわれた状態は、なかなか寝つけない、途中で目が覚めてしまう、もしくは朝早く目が覚めてしまうという夜間の不眠症状と並んで、眠りに関する悩みとして古くから知られています。
夜間の不眠症状が睡眠の状態に関する悩みを表すのに対して、睡眠休養感はおもに睡眠の結果を問題にしており、どのくらい睡眠が充足し、心身の疲労回復がはかられたかを表すものといえるでしょう。

それでは、この睡眠休養感をどのように健康づくりに取り入れることができるでしょうか。
睡眠休養感があれば睡眠時間がいくら短くてもよいわけではないことには注意が必要です。
睡眠の質を支える重要な要素が睡眠の量(睡眠時間)と考えられるからです。

●世代の違い

働く世代は、知らず知らずのうちに睡眠不足におちいりやすいため、平日から睡眠時間をできるだけ確保することで睡眠休養感を高める工夫が役立つでしょう。
高齢世代になり時間にゆとりができると、寝床で過ごす時間がつい長くなりがちですが、かえって睡眠休養感の低下を招く場合があることにも注意が必要です。
これは、一晩の実質的な睡眠時間が年齢と共に短くなるのに対して(⇨特集11へ)、寝床に長居すると睡眠が途切れやすくなることと関係します。

●疾患の影響

また、うつ病などの精神疾患や消耗性の身体疾患の症状として持続的な疲労感が現れると、睡眠休養感の低下との区別がむずかしくなります。
疾患に伴う不眠症状と共に睡眠休養感が低下している場合もあるため、評価や対応について医師に相談しましょう。

●自分に合う睡眠を

睡眠にも個性があり、睡眠の質も皆一様ではありません。
適度な長さで、ほどよく休養感のある自分の生活に合った睡眠を心がけることは、健康づくりへの重要な一歩となるでしょう。

 

こころの元気+2023年3月号より
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