特集1 考え方のくせを生活に活かす(205号)


特集1
考え方のくせを生活に活かす
(205号)
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筆者
田島美幸
(慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 特任講師)


「いつも私は失敗する…」
「すべて私のせいだ…」
気持ちが落ちこんだり不安になったりすると、ふと心に浮かぶフレーズはありませんか?

私達には、皆それぞれに考え方のくせがあります。
あまりに自然で慣れ親しんだ考えなので、それが自分の考え方のくせだと気がつかないことも多いものです。
しかし、そのくせに気づくことができれば、自分をふり返り、気持ちを整理するきっかけをつかめます。

チャートの作成法

まず、「あなたの考え方チャート→コチラ」を作ってみましょう。
リストは、18の質問で構成されています

各質問について、
「まったくあてはまらない」と思ったら「1」、
「あまりあてはまらない」と思ったら「2」…と、数字にをつけてみましょう。

すべての項目に(丸)がついたら、各質問に対応する空欄(の部分)に、をつけた数字を記入してください。

そして、それぞれの列の合計点を計算します。

最後に、チャートに各列の合計点を記入し、それを線で結べば完成です。

自分のチャートが完成しましたか?

 

考え方のくせの特徴

得点が高いほど、その考え方のくせが強いことを示します。
それぞれの考え方自体に良し悪しがあるわけではありません。
これらは自分の個性であり、その考え方がプラスに活きることもあれば、自分を苦しめる方向に働くこともあります。

それでは、それぞれの考え方のくせの特徴をみてみましょう。


A:先読み

○○かもしれない」
○○にちがいない」と悲観的な予測を立てる考え方です。

たとえば、恋人から1日メールの返信が来ないと「もう2人の関係は終わりになるに違いない」と考えて落ちこんでしまうような考え方をさします。
相手は仕事が忙しかったのかもしれないし、返事をしようと思いながらそのままになっていたのかもしれない…。多くの可能性があるのに、確かめないうちから悪い予想を立ててしまいます。

一方、
「先読み」の傾向が強い人は慎重なタイプともいえます。
「○○かも…」と先のことを考えるからこそ、困った事態におちいらないよう準備をするので、ミスや失敗が少なかったりもします。


B:べき思考

「○○すべきだ」
「○○しなければならない」などと思い悩んでしまいやすい考え方です。

思うように事が運ばないことは多いもの。
現実を見ずに「○○すべき」と自分で自分を縛ってしまって苦しくなってしまいます。

たとえば、調子が悪いときに、少し散らかっている部屋を眺めて「主婦ならば完璧に家事をするべきなのに」と自分を責めてしまったりします。

一方、
「べき思考」の傾向が強い人は、自分の基準がきちんとあって意志が強いタイプともいえます。
決めたらやり通す強さを持つので、周囲から頼りにされることが多かったりします。


C:思いこみ・レッテル貼り

自分が着目していることに目を向けて、根拠が不充分なのにもかかわらず
「いつも○○だ」
「必ず○○だ」などと考えてしまいがちです。
そして、「自分はダメ人間だ」などとレッテルを貼ってしまいます。

たとえば、何か仕事でミスをしたとき、「僕はいつも失敗ばかりでダメな社員だ」と考えてしまったりします。

一方、
「思いこみ」の傾向が強い人は、どうしよう、どうしよう…と悩むことなく結論を出すことができるので、割り切りがよく、躊躇せずに前進することができます。


D:深読み

相手の気持ちを一方的に推測して、
「きっとあの人は○○と考えているに違いない」と相手の心を読んでしまうような考え方です。

たとえば、会話中に相手がふと時計を眺めたら、「きっと自分の話はつまらないと思っているのだろう」と考えてしまったりします。

一方、
「深読み」の傾向が強い人は、相手の表情を読み取ったり、言外のニュアンスを察したりできるので、気配りのできるやさしいタイプということができます。


E:自己批判

よくないことが起きると、
「自分のせいだ」と考えて、自分を強く責めてしまう考え方です。

たとえば、みんなで取り組んできたプロジェクトが失敗したときに、
「自分のせいだ、自分がいけなかったのだ」と考えて、必要以上に自分を責めてしまったりします。

一方、
「自己批判」の傾向が強い人は、他人のせいにしたりせずに、「何がいけなかったのだろう」と原因をふり返ることができる強さを持っているので、自分を高めていくことができます。


F:白黒思考

灰色(あいまいな状態)に耐えられず、ものごとを白か黒か、良いか悪いかなどと極端にとらえてしまう考え方です。

たとえば、ちょっとしたミスをして注意を受けたときに、
「完璧にできなかった、この仕事はすべて失敗だ」と考えてしまいます。

一方、
「白黒思考」の傾向が強い人は、ものごとの判断基準がはっきりしているので、スピーディに仕事やものごとを進めることができます。



チャートの見方

いかがでしたか?
「点を打ってできた形が、チャートをはみ出るばかりに大きくて、なんだか心配になってしまった」という人もいるかもしれませんね。

チェックリストに回答する際に、「3」か「4」かを迷って、「4」にをすると、全体的に一回り波形が大きくなります。
そのため、形の大小を気にすることはありません
それよりも、もう一度、自分のチャートを眺めて、特に得点が高い項目に注目するとよいでしょう。

 

自分の特徴を知ることの大切さ

「『先読み』の傾向が強い …だから自分はダメなんだ」と考える必要はありません。
「自分には『先読み』の傾向があるんだ」と知ることで、少し冷静に自分を見ることができます。

そして、いつもの考え方が自分を苦しめる方向に働きそうになった際に、
「また、いつものくせが出てきたぞ」と立ち止まることができればよいのです。

また考え方のくせを自分の「個性」ととらえて日頃の生活に活かせたらすばらしいですね。

 

認知行動療法とレジリエンス

私達は、認知行動療法の研修を行う際に、このチェックリストを使って演習をすることがあります。
自己採点の後に、参加者同士がペアになってお互いの「考え方のくせ」の特徴について話し合ってもらうのです。

その際には、その考え方の短所だけではなく、長所についても話し合ってもらっています。
また、その考え方の長所がなかなか見つからないときには、相手にも協力してもらいながら2人で探していきます。

演習例
たとえば、Aさんが
「私は『べき思考』の得点が高かったです。たしかに自分だけでなく他人にもきびしいところがあると思います」と言うと、

Bさんは
「私は意志が弱いのか、自分で決めたことも長続きしません。だから、Aさんのように「○○すべき」と考えて自分にきびしくがんばれる人はうらやましいです。決めたことをやりとげようとできるのは、Aさんの長所かもしれませんね」

などと、自分の特徴の活かし方について話し合うのです。

長所や強みは「レジリエンス」と呼ばれ、認知行動療法ではこのレジリエンスを活かして治療にあたることを大切にしています。

 

「現実」を見る大切さ

落ちこんだり、不安になったり、精神的につらくなっているときには、一般的に、目の前の現実を見ているようで、きちんと見ていないことが多いものです。
「ああかもしれない」
「こうかもしれない」と、
自分の頭でどちらかというと悲観的なストーリーを作ってしまい、なおつらくなってしまうといった悪循環が起こりがちです。

そんなときには立ち止まって、実際に起きている現実のできごとと、自分の頭の中でつくり上げている現実とを区別する必要があります。

そのときの手がかりになるのが、ご紹介した「考え方のくせ(特徴)」です。
「自分は白黒思考で考えてしまいがちなので、もう一度落ち着いて、いろいろな可能性を考えてみよう」などと立ち戻って考えるヒントになります。

現実を見ながら考えを整理し、目の前の問題に対処していく…
そのステップの一助として、このチャートを役立てていただけたらと思います。

 

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