特集2 身体の点検してみましょう(204号)


特集2
身体の点検してみましょう
精神の健康と身体の健康(204号)
○「こころの元気+2024年2月号より 申込について  申込はこちら
○204号へ戻る


筆者
白石弘巳
(埼玉県済生会 なでしこメンタルクリニック)

 

精神疾患のある人も身体疾患にかかります

精神疾患にかかると、一定期間通院を続けることが多くなります。
当初のはげしい精神症状がおおむねなくなっても、その再発を防ぐために薬の継続が必要なことが多いからです。
そして、通院を続けている間には別の疾患が合併することがあります。

たとえば以下のような2つの例があります。

■例1

統合失調症で通院していた40代後半の男性Aさん。
あるとき、「パニック症状が出た」と臨時で来院しました。

聞けば、引っ越しの片づけをがんばった後、動悸と息苦しさが出てきたそうです。

でも微熱もあったので、この方の指にパルスオキシメーターを装着して血液酸素飽和度(SpO2)を測定したところ89%と低下していました(血液中の酸素の量を表し、通常95%以上)。
Aさんには、「血液酸素飽和度が低いのは、精神症状ではなく体の病気の可能性が高い」と告げ、内科を受診していただきました。

その結果「肺炎」と診断されました。

■例2

統合失調症で通院している50代女性のBさん。
数日前から元気がなく、食欲もなくなってきました。

これまでもときどき似た状態があったので「統合失調症の陰性症状のせいだろう」と判断して家で休んでいたところ、2日後から黄疸(おうだん)が出てきました。

内科医を受診し、胆石による「胆嚢炎(たんのうえん)」とわかりました。

内科医は、
向精神薬服用のせいであまり痛みを感じないため、発見が遅くなった面があるのではないか」と話していました。

■体の病気も忘れずに

体調の悪さは、何でも精神症状のせいとは限りません。
いつもと違う身体症状が出たときは、精神疾患に別の疾患が合併して発症した可能性も念頭に置き、医師の診察を受けることが必要です。

 

予防と早期発見には継続的な健康診断大切

精神疾患の有無によらず、生活習慣病にかかる人の数が非常に多くなっています。
その予防や早期発見には定期的な健康診断が必要です。

■健康診断

一般に、企業の従業員は、「労働安全衛生法」にもとづいて毎年定期的に健康診断を行い、企業で働いていない40歳から74歳までの国民健康保険の加入者は、年に一度、特定健康診査(特定健診)を受けることができます。

検査の項目は、問診・診察、血圧測定、身体計測、血液検査(血糖・血清脂質・肝機能の検査)、尿検査(尿糖・尿たんぱくの検査)などです。

■早期発見

定期的に健康診断を行うことで、生活習慣病の予備軍である「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」の徴候(図1)を早期に発見して、

▼図1:メタボリックシンドロームの診断基準(厚生労働省「eヘルスネットより)

①カロリー摂取の過剰や食生活のかたより
②適切な運動習慣
③十分な睡眠と休息
④気分転換によるストレス解消
⑤適正飲酒や禁煙
などの対策を行うことで脳卒中や心筋梗塞などの発症を未然に防ぐ可能性が高まります。

■毎年検査をする意味

健康診断は年に一度、継続して受けることが大切です。
継続して検査を行うと、その経年変化から(年ごとの値の変化を見比べることで)重い病気を早期に発見できることがあります。

ある人は、貧血の指標であるヘモグロビンが、前年の13g/dl前後から9g/dlに低下したことから、体の異変を疑われ、精密検査の結果、大腸の早期がんが見つかり、手術で治すことができました。

 

精神科で行われる検査も役立ましょう

精神疾患で通院中に、医師から血液検査などを勧められることがあると思います。

医師が検査を勧めるのは、
①初診時に診断をつけるうえで必要な情報を得る
②薬の効き具合や中毒の可能性を除外するために血中濃度を調べる
③処方薬により副作用が出ていないか調べる
④もともと肝障害などの身体疾患がある場合は、その経過を調べる
などがあります。

診断の参考にするために行われる検査には、
一般血液検査(血算、血液生化学検査)、甲状腺ホルモン、脳CTスキャン、脳波などがあります。

■測定が必要な向精神薬

血中濃度の測定が必要とされるのは〔( )内は商品名の例〕
炭酸リチウム(リーマス)、
バルプロ酸(デパケン)、
カルバマゼピン(テグレトール)、
ハロペリドール(セレネース)
などの薬を処方されている場合です。

■副作用が現れるのは

精神科治療の処方薬で生じる可能性のある副作用は、
肝機能、腎機能、糖脂質代謝、白血球数、プロラクチンなどのホルモン値、心電図、などに現れます。

たとえば、抗精神病薬の中にはプロラクチンが高値となって無月経や月経不順を起こす場合があります。

また、心電図上で「QTc延長」という状態が見られると、放置できない不整脈が起こりやすくなることが知られています。

■自分からもたずねてみる

精神科で行われる検査は、精神科治療の効果や副作用をみるほかに、身体疾患の早期発見のために活用することもできます。
医師から採血等の検査を勧められたときには、ぜひ受けるようにしましょう。

検査の間隔は3か月から半年が一般的ですので、それ以上間隔が空くときは、検査の必要はないか医師にたずねてみるとよいでしょう。

 

検査結果を理解して、今後の療養に役立てましょう

検査を受けたときは、結果について理解し、今後の生活に役立てることが大切です。
検査結果が出たとき、異常値があれば、その意味、今後の治療や生活上で気をつけることなどについて主治医から聞いておきます。

■段階で異なる対応

ある検査結果が異常でも、その程度は、
①経過観察でよい軽度な異常
②精神科で治療可能な異常
③内科などの専門医療機関で検査や治療を要すると判断される異常
などの段階があります。

「異常値がある」と聞いてあわてず、その程度を正しく理解して適切な対応をとりましょう。
なお、結果報告書は自分でも保存しておくとよいでしょう。

■検査項目と数値の意味

表1で、一般の健康診断や精神科で行われる検査項目について、その異常値の意味することについて、多くみられる障害を示しておきます。
主治医から結果の説明を聞くときの参考としていただくとよいと思います。

もちろん、それぞれの検査項目が異常値を示す病気は表にあげた以外にもたくさんあります。

京都の社団法人中京東部医師会では健康診断の結果の意味を一般向けに解説した『検査の参考書』(1500円)を出しています。異常値の意味をくわしく知りたい方にお勧めします(中京東部医師会のホームページをご覧ください)。

 

がんに対する予防も必要

日本では、年間約100万人が新たにがんと診断されており、精神疾患にかかった人も生活習慣病のほか、がんの予防も大切です。
とくに、胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんについては健康増進法にもとづく事業として、一定の年齢に達した人を対象に市町村が「がん検診」を実施しています。
市町村からそれらの検査の案内が来たら、ぜひ受けるようにしてください。

■心配しすぎは健康の害

逆にあまり病気を心配しすぎては、それこそ健康を害することになります。
健康診断は、その有効性(エビデンス)が確認されたものについて行われます。
それ以上検査してもメリットはありません

受けるべき健康診断を受け、あとはできるだけよい生活習慣を保ち、気になる体の症状が生じたらそのつど医師に相談するのが、正しい対処法になります。

 

○「こころの元気+2024年2月号より 申込について  申込はこちら

○204号へ戻る