特集1 薬はどのように体をめぐり効いているのか?(192号)


特集1
薬はどのように体をめぐり効いているのか?(192号)

こころの元気+2023年2月号より
○戻る


著者:井上猛
(東京医科大学病院 メンタルヘルス科 精神科医)

 

薬がどのように体に吸収され、脳に働いて、心の症状がよくなるのを手伝ってくれるのかを知ることはとても大切です。
せっかく薬をのんでも、血液中の濃度が上がらないために、十分に脳に働かないこともあります。

薬はどのように、どのくらいとりこまれるのか?

精神科の薬にはいろいろな剤形(ざいけい)の薬がありますが(⇨特集2を参照)、
口から服用した場合は、薬は胃を通過して、十二指腸や小腸で血液中に吸収されます。

ほとんどの精神科の薬は食道や胃では吸収されません。

例外は、統合失調症の治療薬であるシクレスト(商品名)で、この薬は口腔内で(口の粘膜から血管に)吸収されますが、口に入れてすぐにのみこんだ場合は、消化管(胃腸)からの吸収と消化管や肝臓での代謝の過程でほぼ不活化されて、血液中には、ほとんど現れません。

睡眠導入薬のロゼレム(商品名)も生体利用率(口から服用した薬剤が血液中にとりこまれる割合)が低く、服用した薬の2%しか血液中にとりこまれません。
その他の精神科の薬剤の生体利用率は30〜80%でさまざまです。
また、薬の体内への吸収に食事が影響をおよぼすこともあります。

 

肝臓での代謝と薬物の組み合わせ(⇨特集8を参照)

すべてではありませんが、多くの精神科の薬は消化管から吸収された後、肝臓代謝(酵素により他の物質に変化すること)を受けます。

肝機能の悪い方では肝臓での代謝が弱いため、薬の血中濃度は上がりやすくなることがあり、服用する薬の用量を減らす必要があります。
さらにさまざまな薬物が肝臓での代謝に影響を与えて、他の薬の血中濃度が上がったり、下がったりします。

特に影響しやすい薬物の組み合せについては、医師・薬剤師が注意して処方しますし、禁じられている組み合せもあります。
薬の組み合わせについてはとても複雑な知識が必要になりますので、専門家(精神科医、薬剤師)に判断をゆだねたほうがよいと思います。

なお、さまざまな診療科から薬をもらっているときは、1か所の病院、あるいは1か所の調剤薬局で薬をもらったほうが安全です。

血液中から脳へ

以上のように口から服用した薬は消化管から吸収され、肝臓で代謝された後に血液中を流れて、に到達します。
血液中の薬物は「血液脳関門」という脳血管の膜を通して脳に入っていきます(下図)。

精神科の薬は脳に入りづらい薬はまれですが、内科薬の多くは脳に入りづらく、脳への副作用は少ないです。


受容体や取りこみ部位に結合し、作用する

脳内に入った後、薬は脳内を拡散し、神経の膜にあるさまざまな神経伝達物質の受容体取りこみ部位というたんぱく質に到達して、結合し、作用を起こして精神症状への作用や副作用を引き起こします。

薬が受容体の働きをおさえると、ドパミンやノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の作用を弱くします図のA)。
作用を弱くするからといって症状を悪くするということはなく、受容体の働きをおさえたほうが、心の症状がよくなることもあります。

また、薬が取りこみ部位に作用して、ドパミンやノルアドレナリン、セロトニンの神経内への取りこみをおさえると、神経と神経の間のこれらの神経伝達物質の濃度が高くなって、神経伝達物質の働きがよくなります(図のB)
なお、受容体や取りこみ部位でも薬物同士の相互作用があります。

まとめ

口から服用した薬は
消化管から吸収され、
肝臓で代謝され、
脳内に入って、
さまざまなたんぱく質に結合して、
神経伝達物質の働きに影響して、
心の症状がよくなることを助けてくれます。

なお、一部の薬では吸収や代謝、働きに工夫を要することもあります。


こころの元気+2023年2月号より
○戻る