ちょっと知りたい! いじめ後遺症(188号)


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第92回 いじめ後遺症(188号)

こころの元気+2022年10月号より
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著者:増田史

NPO法人ストップいじめ!ナビ 特別研究員/精神科医)

 

▼いじめ後遺症とは?

現在療養中の方の中にも、子どもの頃にいじめを受けた方がいるかもしれません。
いじめ被害は受けているときだけではなく、その後長期間にわたり被害者に影響をもたらすことが研究で明らかになってきています。

2017年の世界精神医学会誌の総論では、いじめ被害の長期的影響として
「低い自尊心、自分を傷つける行為、学問上のつまずき」が重大な問題であることを指摘しています。

近年の研究では、いじめ被害は、その後の不安、うつ、自傷、自殺念慮などと関連していることが明らかになっています(※資料1と2)。

これらいじめ被害による社会関係への悪影響や生活の質の低下などは、少なくとも50歳頃まで残存し得ることも報告されています(※資料3)。

またいじめ被害は、精神症状のみならず、体内の炎症反応指標の上昇や肥満の指標となるBMI値の上昇など、身体にも長期的な影響をもたらすことも示されています(※資料4)。

 

▼複雑性PTSDとの関連

いわゆるPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)は、死の危険に直面した後に、その記憶がしつこくよみがえったり、悪夢に見たり、不安や緊張、イライラ感が高まったりする状態です。
複雑性PTSDは、いじめや虐待のように「くり返された」トラウマ体験により引き起こされるもので、先の症状に加えて、
「感情を整えるのがむずかしい」
「自分を否定的にとらえる」
「対人関係がうまくとれない」
という症状が特徴とされます。
こちらは比較的新しい疾患概念であり、研究が進んでいるところです。

 

▼今後のアプローチ

重大な後遺症をもたらすと判明した今、いじめに対する予防的アプローチはより重要性が増しています。
フィンランド発祥の「KiVaプログラム(キヴァプログラム)」は、いじめへの対応、教員のトレーニングと学校間の連携強化などを行い、いじめを2割程度減少させられたそうです。

日本では、2013年にいじめ防止対策推進法が施行され、いじめに関する第三者委員会の立ち上げなどは進みましたが、いぜんとして被害報告は後を断ちません

いじめ被害者や加害者に対する対応の見直しに加え、教員のメンタルヘルスや働き方にも注目していく必要があると考えられます。
誰もがしんどいときにヘルプを出せるよう、体制を整えていくことが望まれます。


資料
※1: Baldwin JR et al., Adolescent victimization and self-injurious thoughts and behaviors: A genetically sensitive cohort study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry. 2019; 58(5): 506–513.
※2: Singham T et al., Concurrent and Longitudinal Contribution of Exposure to Bullying in Childhood to Mental Health: The Role of Vulnerability and Resilience. JAMA Psychiatry. 2017 Nov 1;74(11):1112-1119.
※3: Takizawa R et al. Adult health outcomes of childhood bullying victimization: Evidence from a 5-decade longitudinal British cohort. American Journal of Psychiatry 2014; 171: 777-784.
※4: Takizawa R et al., Bullying victimization in childhood predicts inflammation and obesity at mid-life: a five-decade birth cohort study. Psychological Medicine 2015 Oct;45(13):2705-15.

こころの元気+2022年10月号より
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