ちょっと知りたい! 経験を差し出す(186号)


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第90回 経験を差し出す(186号)

※「こころの元気+」2022年8月号より
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著者:相川章子(聖学院大学)

協力:川村有紀さん


接着剤となる同様の経験

ピアサポートにおいて、人がつながるときの接着剤となるのが、同じような経験(同様の経験)です。
同様の経験は目に見えないので、経験を「話す」とか「語る」など、共有できる形への変換が必要です。
とりわけピアスタッフは、同様の経験を活かして、同様の経験をしている仲間(ピア)のリカバリーを誘う職種ですので、「経験を語る」ことがとても重要になります。

経験を差し出す

私がこの表現を意識して使うようになったのは7、8年前からだと思います。
ピアスタッフの川村有紀さんが、「経験を語る」ではなく「経験を差し出す」と表現されていて、互いの「経験」をとても大切にし、一方的に語るのではないという感覚を覚えました。

ピアスタッフが「経験を語る」ときは、仲間の経験を聴き、分かち合いたいという思いで語っているように思います。
その場合、自分の経験を「押しつけ」ないように細心の心配りをしているようです。
それはご自身が、これまでに支援の場面で少なからず傷ついた経験があるからです。

ピアスタッフが経験を語るときは「今、ここに」、私の経験を、あなたと私の「あいだ」に、そっと「置く」感じなのだと思います。

差し出した経験は、受け取ることも、眺めるだけ聴くだけにすることも自由です。
誰のものでもなく、経験は経験として尊重され、それを眺める人々も主体として尊重されている空間と場をつくるのだと思います。
その場は、まさにピアサポートの価値が息づく場で、中動態的な世界であり、誰もが主体として尊重される居心地のよい場になると思います。

今は精神保健福祉士として働く川村さんより

仕事の中で「経験を語る」ことがなくなったけれども、言葉がなくても、そこに一緒にいることの中に「経験を差し出す」が相互に起こるものなんだと感じています。
仲間の経験を聞いてほっとして寄り添ってもらったことが今の私をつくっていて、精神保健福祉士としての仕事の中でも相手との関係性を築いていく中で、「経験を差し出す」が相互に起こるものだと感じています。
「経験を差し出す」ことは、行為ではなく、ピアスタッフとしてのあり方やスピリッツみたいなものではないか、と思います。

 

ピアスタッフとしての「あり方・スピリッツ」ということに、改めてピアスタッフに宿る「経験」の重みと、それを共有しようとする価値を感じました。

 

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