認知行動療法あるある(182号)


連載:いろいろ応用できる認知療法をじょうずに使ってみませんか
(※この連載について→コチラ)

第153回 
 認知行動療法あるある  こころの元気+2022年4月号より
○ネット特集へ戻る

著者:大野裕(一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長)

 

認知行動療法でのよくあること「あるある」は?

認知行動療法の「あるある」は、
「認知行動療法は考えを変えさせるアプローチだ」
「認知行動療法は考え方のクセを変えるアプローチだ」
という決めつけです。

たしかに認知行動療法では、
根拠が不十分なまま結論を急ぐ「決めつけ」、
よいか悪いかだけを判断してその中間を見ない「白黒思考」、
何でもきちんとしないといけないと考える「完璧主義」など、
「よくない」とされている考え方について話し合うことがあります

しかしそのとき、
「そのような考え方をするのが悪い」
と責めるような状況になってしまうことがあるので気をつけなくてはなりません。

クセといってしまうと、
「そのクセを持っているその人が悪い」
人間性まで否定して心を傷つけてしまうことになりかねません

そもそもクセと呼ばれるような考え方の特徴があるのは、これまでそれが役に立つことが少なくなかったからで、
そのため、いつの間にか自分の考え方や行動に組みこまれていったのです。

クセは使い方と程度が大事

さらに、少し視点を変えてみます。
私達は、認知行動療法のトレーニングのために、面接の当事者の了解をいただき、録音したものを聞きながら指導することがあります。

あるとき、こんな場面がありました。
面接者は、相談者の完璧主義を指摘するのですが、
相談者は、
「仕事はきちんとしなくてはならない」
と言って譲りません。

そこで押し問答になっている場面で、私は面接者に、
「医療機関を受診したときに、完璧主義の医者と、いい加減な医者と、どちらに診てもらいたいか」
とたずねました。

見落としがないように完璧主義の医者に診てほしいと考えるのが自然だと思ったからです。
しかし、「きちんとしないといけない」と考えすぎて対応が遅れるのは困ります。
手術では、完璧であると同時に思い切って行動に移す実行力も大事になります。

こう考えると、考え方のクセによい悪いがあるわけではなく、その使い方が大事なのだとわかってきます。
完璧主義が必要な場面も、直感的に行動したほうがよい場面もあります。
場面に応じた使い分けができる柔軟な考えを持つことが大事で、それができるように手助けするのが認知行動療法です。

それと同時に程度の問題もあります。

たとえば私のところに相談に訪れた開業医は、診療室の掃除を止められなくなったことに悩んでいました。
もともときれい好きで、診療後2時間くらい、自分で診察室の掃除や診療器具の清掃をしていたそうです。
若干やり過ぎな感じはしますが、受診する人の立場ならきれいで安心です。

ところが何かのきっかけで、その人は掃除を止められなくなって、いくら掃除をしてもきれいになったと思えず、掃除の時間が長くなり、朝まで掃除をするようになりました。
それに困って、私の外来を受診したのです。
この場合の治療は、きれい好きの性格をほどほどに生かせるようにすることになります。

考え方のクセも性格も一面的によいか悪いか決められません。
状況に応じ、適度に生かせるかが大事になります。
そのためには、そのよい面とよくない面を意識し、よい面を生かせるようになることが役立ちます。

以前も紹介しましたが、10年ほど前、高校生が「ネガポ辞典」というアプリを作ったことが話題になりました。
ネガティブな言葉をポジティブな言葉に言い換えるアプリで、
たとえば、
「愛想が悪い」は、
①媚を売らない、
②他人に流されない、
③気疲れしない、

「存在感がない」は、
①まわりにとけこめる、
②縁の下の力持ち、
③落ち着いている、

「不幸」は、
①これから幸せになれる、
②忍耐力があるなど、
なるほどと思わせる内容です。

こうした言葉の両面性に目を向けられれば、自分を生かしながら生きていけるようになるでしょう。


profile
おおの・ゆたか
一般社団法人認知行動療法研修開発センター 理事長
特に趣味があるわけでもなく、平日は臨床をしていて、時間を見つけて原稿を書いています。
好きなことは、時間を見つけて寝ることと、家族や仲間と話をすることで、それが一番のストレス解消になっています。

 

こころの元気+2022年4月号より
○ネット特集へ戻る