ステイ・ホームとうつ(168号)


連載:いろいろ応用できる認知療法をじょうずに使ってみませんか
(※この連載について→コチラ)

第139回 
ステイ・ホームとうつ  こころの元気+2021年2月号より
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著者:大野裕(一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長)

 

2020年9月、私はコンボが主催する「リカバリー全国フォーラム2020」のオンラインの基調講演で話をしました。
フォーラムでは発表中に多くの質問を送っていただき、いくつか答えましたが、十分に説明する時間がありませんでした。
しかし、とても役に立つ質問が多かったので(フォーラムの中でお約束したように)このコーナーでお答えします。

家に閉じこもること

なぜソーシャルディスタンスでうつになるかわかりません」というご質問がありました。
新型コロナウイルス感染症が拡大して初めて緊急事態宣言が出されたのは、2020年4月です。

感染防止のために「ステイ・ホーム」、つまりできるだけ家の外に出ないように言われました。
そのとき私は、「家に閉じこもることで、精神的なストレスを感じる人が増えるのではないか」と思いました。

家の中にずっといると、人間関係にいろいろな問題が出てきます。
家族と一緒に生活している人は、家での家族と交流する時間が増えたことで、それまでと違った距離感が家族の間に生まれます。
そのおかげで会話の時間が増えてよかったという人もいますが、今までとは違う距離感になじめなくて関係がギクシャクするようになった人もいます。
その結果、「自分が家族から受け入れられていない」と考えるようになって落ちこむことになる可能性があります。

1人で生活している人の場合は、もっと深刻です。
誰とも接しなくなると、自分が見捨てられたように感じて落ちこむ可能性が出てきます。
友人から連絡がないことで、
「自分のことなど、どうでもいいと思っているのではないか」
と考えるようになるかもしれません。
1人で考えていると、よくない可能性が頭に浮かんできて、
「このまま関係が途切れてしまうのではないか」
と考えて不安になってきます。

心が弱くなってくると、過去のよくないことを思い出すようになります。
れまでのできごとを思い浮かべて、「もっとこうすればよかったのに」と考えるようにもなります。
後悔の念ばかり強くなって、自分を責めるようになる可能性もあります。

人と直接会ったり話したりできれば、悲観的な思いから現実の世界に戻って、適切な行動がとれるようになりますが、1人でいると悪い可能性ばかりが頭に浮かんで止まらなくなります。
そのために、気持ちが沈みこみやすくなるのです。
閉じこもること自体も心の元気を奪います。意欲が削がれ、落ちこむようになるのです。

私達の意欲が出てくるのは、何かをしてよかった、楽しかったと感じられたときです。
家の中に閉じこもりがちになると、そうした体験ができにくいために意欲が低下してきます。
すると、何かをしようとする気になれない自分を責めるようになって、ますます気持ちが落ちこんでくることになります。

ステイ・ホームタウンを

ずいぶん前の有名な研究でも、楽しみや喜びを感じられるような行動が減ってくると、気持ちが沈みやすくなることが実証されています。
ですから、心を元気にするには、人間的な交流を保ちながら、楽しみや喜びを感じられる健康行動を増やすようにすることが役に立ちます。

ですからステイ・ホームが言われた頃、私は、
「むしろステイ・ホームタウンと言うべきだ」
と考えていました。

家の中に閉じこもっていると筋力が弱くなって体力が落ちてくるだけでなく、精神的にも落ちこんでくるので、よく知っている自分の町で密を避けながら、楽しめる行動、やりがいのある行動を増やすようにしようという意味です。
また、自分が住んでいる町であれば、知っている人がいて、人間的交流ができる可能性もあります。

身体的距離をとるなどの感染対策をきちんとして交流できれば、気持ちも軽くなってくるはずです。
そもそも私達人間は、太古の昔から社会的なつながりの中で生きてきたことを考えると、1人で閉じこもるのは不自然なことなのです。

 

☆大野先生より
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