抗うつ薬の減薬について(2)(176号)


減薬という旅の彼方に2 ※連載について→コチラ

第6回
抗うつ薬について(2)
こころの元気+2021年10月号より
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著者:小林和人(特定医療法人山容会理事長・山容病院院長)

 

抗うつ薬を種類ごとに解説していきます(筆者の私見を含む)。

表:抗うつ薬の種類

 種類  おもな薬の商品名
 三環系抗うつ薬  トリプタノール、トフラニール、アナフラニールなど
 四環系抗うつ薬  テトラミドなど
 SSRI:選択的セロトニン再取りこみ阻害薬  デプロメール、ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなど
 SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取りこみ阻害薬  トレドミン、サインバルタなど
 NaSSA:ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬  リフレックス、レメロン
 SARI:セロトニン遮断再取りこみ阻害薬  デジレル、レスリン
 セロトニン再取りこみ阻害・セロトニン受容体調節剤  トリンテリックス

 


▼三環系抗うつ薬

まず三環系抗うつ薬(さんかんけい こううつやく)です。
トリプタノール、トフラニール、アナフラニールなど。

セロトニンとノルアドレナリンの再取りこみ阻害作用が中心で、簡単にいえばセロトニンとノルアドレナリンの働きを強めます。

抗コリン作用(アセチルコリンの働きを弱めること)による口の渇き、便秘、排尿障害、眼圧上昇などの副作用があります。
抗ヒスタミン作用によって眠気、ふらつきも生じます。
つまり

副作用が強い薬剤です。
抗うつ効果が強いことから、いまだに使われますが、長期使用には向きません。
主治医と相談のうえ、抗うつ薬がこれからも必要であれば、他の抗うつ薬へ変更したほうがよいかもしれません。


四環系抗うつ薬

続いて四環系抗うつ薬です。
テトラミドなどが該当します。

三環系と比べると抗コリン作用が弱い、つまり副作用が少ないのが特徴です。
しかし、新たな抗うつ薬が次々登場し、四環系の出番は減りました。
今も継続している場合、もしかしたら抗うつ薬としてよりも、鎮静作用による睡眠剤代わりとしてかもしれません。

SSRI(エスエスアールアイ)

選択的セロトニン再取りこみ阻害薬SSRIには、デプロメール、ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなどがあります。

セロトニンの働きを強める一方、他にはあまり作用しないので安全性が高いです。
しかし漫然と長期服用すると、感情がにぶくなるなどの問題があります。

うつ病がよくなっていれば、SSRIについてもやはり減量・中止を考慮します。
しかし、実は不安や強迫などの症状に使っているケースもあり、その場合は中止がよりむずかしいかもしれません。

SNRI(エスエヌアールアイ)

セロトニン・ノルアドレナリン再取りこみ阻害薬SNRIには、トレドミン、サインバルタなどがあります。
その名のとおり、セロトニンだけでなくノルアドレナリンの働きも強めます。

痛みに対する効果があります。
うつ症状はよくなったけれど痛みがまだ残っているというケースで、疼痛(痛み)をやわらげる目的でSNRIが続いているかもしれません。

NaSSA(ナッサ)

最後はノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬NaSSAです。
この名が示すように、作用機序が複雑です。
ものすごく簡略化していうと、ノルアドレナリンとセロトニンの放出を促します。
リフレックス、レメロンが該当します。

眠気と食欲亢進がおもな副作用ですが、逆に不眠や食欲低下が強いケースによく用いられ、不安・焦燥にも効果的です。

うつ病が改善してもNaSSAを続けている場合、鎮静作用に慣れてしまい自分では気づかないことがあります。
単に減量・中止するのではなく、いったん睡眠剤に置き換えるなどの方法もありますので、相談が必要です。

のむ理由を理解する

ここまででわかるように抗うつ薬は種類が多く、そして複雑に作用します。
うつ病以外への使用が保険適応となっている薬も多いです。
初めはうつ症状に対する抗うつ薬が、治療を続けるうちにのむ理由が変わる場合があります

そもそも、うつ病は不安障害や発達障害など併存症(別の病気が同時にあること)が多いことが知られています。
もしも現在のんでいる理由が、不安や強迫、疼痛ならば、中止することにより悪化が始まる場合もあります。
ですから、今なぜその薬をのんでいるのかを理解することがとても大切です。

私の外来では抗うつ薬を中止しても通院を続け、近況を話してストレスを軽くする人達がいます。
1~3か月に1度くらいのペースでしょうか。
若い人なら就労後のストレス対処への助言、
中高年なら物忘れのチェックなど、
長いつきあいになると通う目的が変わってきます。
もちろん「終診にして何かあればまた来ます」という人も多くいます。

皆さんはそれぞれ状況が異なると思いますが、自分なりにじょうずに病院を使ってもらえればよいと思います。


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こばやしかずと
●山形県酒田市に住む精神科医です。
多剤併用を見過ごせず縁のない土地へ移り、理事長、院長、臨床医の三役に全力で取り組んでいます。
「のむ治療から学ぶ治療へ」を掲げて、依存症治療を積極的に展開し、診療の幅を広げています。
趣味はマウンテンバイク、四児の父です。

 

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