厚生労働省の検討会に要望書を提出


認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)は、令和4年4月8日付で、厚生労働省で開催されている地域で安心して暮らせる精神保健福祉医療体制の実現に向けた検討会に要望書を提出いたしました。

厚生労働省に提出した要望書はこちら

地域で安心して暮らせる精神保健福祉医療体制の実現に向けた検討会」について→こちら

令和4年4月8日

「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」構成員の皆様へ

特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構・コンボ
代表理事  宇田川 健


これからの精神保健福祉医療体制について私たちが望むこと

【身体拘束についての私たちの基本的な考え方】

 

1.身体拘束は、医療の一部であるが治療ではない。
2.治療については、治療によって見込まれる利益と起こりうる不利益(有害事象、合併症等)について十分な説明が行われ、見込まれる利益と起こりうる不利益を比較して、治療を受けるかどうかを選択する権利が患者に保証されている。医療者がベストを尽くしても治療において発生しうる不利益については、説明を聞いた上で同意を与えた患者も責任を負う。
3.しかし、身体拘束は治療ではないので、処置として施行される前に患者に対する説明同意は行われず、また、患者に選択する権利保障及び機会はがない。

【身体拘束によって生じる不利益を予防する責任】

 

1.患者にとって、身体拘束は、利益がほとんどなく、心理的侵襲は必ず発生し、身体的な健康への大きな危険性が伴う、不利益が非常に大きい処置である。

2.身体拘束は、患者への説明同意によらずして、病院側の判断で一方的に施行されるものであり、身体拘束中に発生する患者への不利益については、法的に病院側が全面的に責任を負うものと考えられる。

3.身体拘束による、心理的侵襲や身体的な健康に関する危険性といった不利益を起こさないためには、身体拘束を行っている患者に対しては、病院側が、非常に高いレベルのケア(患者への拘束の必要性と解除の見込みの説明、慰謝、身体的な健康に異常が発生していないことを確認するためのモニターや採血検査等)を提供する責任がある。

4.身体拘束におかれている患者に、心理的侵襲や身体的な健康に関する危険性といった不利益を起こさないためには、通常の身体疾患に対する治療やケアと同等かそれ以上の密度の治療やケアが必要と考えられる。

5.精神科病院、精神科病棟における精神科病床に、身体拘束を行うことを許可する場合には、一般病床を越える基準での医師や看護師の配置、および身体拘束に関する危険性を予知し予防するための検査機器、検査手段を確保し、検査を実施することを国が法的に義務づけるべきである。

6.上記の体制を取ることができない精神科病院、精神科病棟においては、身体拘束を施行することを、国が法的に禁止するべきである。

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私たち地域精神保健福祉機構・コンボ(以下 コンボ)といたしまして、これからの精神保健医療・福祉体制に望むことについて思いをつたえたく、この度文書をもってお願いをいたします。コンボとしての家族を含む当事者・医療・福祉・専門職のパートナーシップをふまえ、10年、30年先を見越し、現在取り組むべきこととして以下に具体的な提案をいたします。

【提案】

 

1.身体的拘束のゼロを目指した具体的な取組の早期の提示

●身体的拘束を受けるということは当事者にとって極限状態であり、また、心理的・身体的障害をもたらされる可能性があります。このことについて、我がこととして考えてください。
1)身体的拘束を含む行動制限下での統計データの公表をしてください。
2)精神科病院、精神科病棟において、身体拘束を行うことが許可される病棟には、一般病床を越える基準での医師や看護師の配置、および身体拘束に関する危険性を予知し予防するための、検査機器、検査手段の確保と実施を国が法的に義務づけてください。
3)精神科での、身体合併症・突然死を予防するために必要な検査を行うことなく身体的拘束を行うことは法的に禁止して下さい 。

2.身近な暮らしのある地域から、当事者を切り離さないで在宅で支えられる市町村単位の支援体制の構築

●今後、人口減少、人口ピラミッドの変化を考えると、安心して地域で最期の時を迎えられる地域作りが日本国では求められると思っております。日本国に貢献した高齢者が、現状ナーシングホーム化しているマンパワー不足の精神科病院で、身体拘束されて亡くなっていく30年後にならないよう、地域精神保健サービスの構築のための予算立てをお願いいたします。

3.医療保護入院制度の廃止と、医療保護入院に頼らずに済む患者本位の医療的ケアも含めた地域精神保健医療福祉体制の更なる充実
●医療保護入院を廃止すると、増々充実した地域ケアが必要になりますが、この20年間、日本はそういった方々に対する外来医療・福祉サービスを強化しておらず、アウトリーチサービスや個別サービスを中心に据えた、住居・生活支援、身体疾患支援、就労支援などの予算を拡充してほしいと思います。

4.「 多動又は不穏が顕著である場合」という項目の削除
●精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(昭和六十三年厚生省告示第百三十号)に示されている、「2 対象となる患者に関する事項」について、「イ 多動又は不穏が顕著である場合」という項目については、見直し・削除を求めます。この表現による定義づけでは、客観的指標というよりも身体的拘束を実施する側の裁量によるところが大きいように見受けられるため、当事者性を持つ立場としては、不適切な運用への懸念を十分にぬぐい切れません。身体的拘束の要件としては、適当ではないと考えます。

5.「精神医療審査会」の実態分析と機能検証
●精神医療審査会の具体的な位置づけと活動内容についての分析が必要と思われます。例え ば、精神科病棟において、公衆電話がナースステーションから見えるところに置いてある場合、正当な権利とはいえ、精神医療審査会に連絡するにはかなりの心理的なハードルを伴います。また、精神科医療審査会へ勇気を出して請求した総数に比して、認められた件数が著しく少ない現状があります。精神医療審査会がよい実例に沿った権利擁護活動をできるようにする必要があります。精神科医療審査会へ勇気を出して請求した総数に比して、認められた件数が著しく少ない現状があります。実態検査を調査、報告してください。機能検証の委員会を立ち上げてください

6.虐待防止について

●障害者虐待防止法の附則第2条に基づく見直しが必要であり、「通報義務及び通報者保護」の規定については、障害者虐待防止法の改正で行われることが適当であると考えます。