特集3 ゲートキーパーの経験から 成長する力を信じること(181号)


特集3
ゲートキーパーの経験から 成長する力を信じること(181号)
※「こころの元気+」2022年3月号より
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著者:森本美花
NPO法人 ゲートキーパーTONARINO

 

ゲートキーパーとは

皆さんは「ゲートキーパー」をごぞんじでしょうか。
自殺対策の用語で、悩んでいる人に寄り添い、関わりを持って「孤立」を防ぎ、必要な支援につなげ、見守る人のことです。
ゲートキーパーは特別な職業や資格ではなく、その役割は、何気ない日常生活の関わりの中で私達誰もが果たせるのです。
つまり、誰もが誰かのゲートキーパーになれるのです。
私はそのことを伝えたくて、ゲートキーパーの啓発や養成活動をしています。
ですから「ゲートキーパー」を必要とされる方、そのマインドをお持ちの方に読まれる本誌で紹介させていただけたことを、とてもうれしく思っています。

「ゲートキーパー」になることへの不安

ところが「ゲートキーパー」の啓発や養成をしていると、必ずされる質問があります。
「自分の関わり方で、事態が悪いほうへ展開したらどうしよう」
というものです。
ゲートキーパーとして大きな役割を担うのは、家族や友人、職場や学校の仲間など、まずは身近にいる皆さんです。
だからこそ不安に思われる方も多いのでしょう。
そんなときに思い出すのは、もと同僚のKさんのことです。

定期的に死にたくなるKさん

Kさんは、私がカウンセラーになる前に勤めていた会社の同僚でした。
当時、彼女は20歳くらいでしょうか。
誠実に仕事に取り組む一方、少し個性的で、同年代の同僚とは距離がある様子でした。
そんな彼女が気になって私が声をかけたことをきっかけに、たまに話すようになりました。

少し歳上の私は話しやすかったのか、ある日こんなことを話してくれました。
「自分は何年も精神科に通っている。理由がなくても定期的に死にたくなってしまう
驚きましたが、Kさんが勇気を持って話してくれたことは伝わりました。

そして私はKさんと、
「死にたくなったら電話をする」
と約束をしました。
もちろん、タイミングによっては電話に出られないこともあるという前提です。

もし「死にたい」と言われたら?

まず、私達にできるのは、相手の話を否定せずに、ただ「きくこと」です。
ショッキングな言葉ですから、
「死にたい」
と言われれば自殺行動に直結して考えがちですが、まずは
「死にたいくらいつらい気持ち」
を打ち明けてくれたという“事実”を受け止め、相手が伝えようとしていることをせかさず、否定せず、ありのままをききましょう。

「死にたい気持ち」は無理に消すことはできませんし、誰にでも打ち明けられるものではありません。
きっとそれは、あなただから話してくれたのです。

ただそばにいるだけでもかまいません。
それが「孤立」を防ぐことになります。

また、あまりに強い「死にたい」気持ちなどは、その多くが病気の症状の可能性があり、治療が可能だということを知っておきましょう。

あわせて、誰であっても、「死にたい」と言われたらショックを受けて当然ということも認めましょう。
それがご家族や友人など大切な人であればなおさらです。
ゲートキーパーは万能ではありません
1人でかかえこまず、自身の健康・相談先の確保が大切です。
誰もが成長する力を持っていることを信じて、互いにつながっていきましょう。

まとめにかえて

Kさんの話には後日談があります。
実はたった一度だけ、Kさんから電話がかかってきたことがあります。
それは月曜の朝9時、始業すぐのタイミングでした。

「どうしても会社に行けない、死にたくなっている」
と言うのです。続けて、
「金曜の夜から死にたかったけれど、森本さんは土日休まないといけないから月曜まで我慢した」と。

何とKさんは、約束を守るだけでなく、私の心配までしてくれていたのです。
Kさんはあきらめず、よくなりたいとがんばっている…
思わず私の口から出た言葉は、
「電話をくれてありがとう」でした。

この経験は「相手(あるいは自分)の成長する力を信じること
という私のゲートキーパー活動の原点につながっているのです。

 

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