トピックス
ブレインバンクは未来へつなぐ希望の贈り物(179号)
※「こころの元気+」2022年1月号より
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著者:丹羽真一
(精神疾患死後脳バンク賛助会つばめ会 会長)
ブレインバンクとは?
精神疾患は脳の故障のため生活の中で直面する困難に対処しきれずストレスが高まることに発病の原因があります。
よい治療法を見つけるためには、その故障をくわしく知ることも大切です。
脳以外の臓器の故障で起きる病気の場合は、その臓器の病気の部分を手術によって取り出し、故障を調べることができます。
しかし脳は生前に取り出すことはできませんから、故障の様子をくわしく調べることができません。
もっとよい治療を受け、普通の生活を取り戻したいという当事者の希望を実現するのに、それでは困ります。
そこで脳の故障を知り、よい治療法を見つける研究を進めるために、残念ながら亡くなられた患者さんの脳を死後に提供いただくバンクが必要となります。
死後脳のバンク、すなわちブレインバンクとは、お亡くなりになられた方の脳をご本人の生前の希望や御遺族の意思にもとづいて集積し、研究に必要な試料として希望する研究者にきちんとした審査のうえで提供できるように整えておく保存と提供のシステムのことです。
今回は福島ブレインバンクについてご紹介します。
海外の動向
欧米では研究への献体を「希望の贈り物」とする考えがあり、古くからブレインバンクの取り組みが活発です。
米国では、ハーバード大学、国立衛生研究所、マウントサイナイ医大など1000例を超える死後脳を集積する大規模バンクも運営されています。
また、これらのブレインバンク間での連携がはかられ、北米ブレインバンクネットワーク構想、ブレインネットヨーロッパⅡ、豪州ブレインバンクネットワークが形成されています。
しかし、米国などの精神疾患ブレインバンクでは圧倒的に豊富なリソースを有しますが、死後脳それ自体や生前の臨床情報の質という点では問題があります。
その他日本以外のアジア諸国では、韓国ブレインバンクネットワークやインドバンガロールヒト脳試料レポジトリーなどが構築されていますが、宗教的問題や文化歴史的背景から、今のところ脳組織集積は十分に進んでいないのが現状です。
日本では福島に精神疾患研究のためのブレインバンクが平成9年(1997年)から活動しています。
最新の研究の成果
◦最近5年間の投稿論文数
福島ブレインバンクのリソースを用いて行われた最近の研究の成果は18論文、平均して年に3・6論文の原著論文として報告されています。
毎年成果が上がっており、現在進捗中の研究についても論文発表が期待できます。
◦統合失調症の新たな治療標的としてのベタイン
以前から統合失調症の患者さんの血液では、天然の食品にも含まれているベタインという物質が少なくなっていることがわかっていましたが、福島ブレインバンクのリソースを用いて、患者さんの脳の中でもベタインが少なくなっていることを見出しました。
関連する研究も進み、既存のものとは異なる統合失調症の薬物治療法の開発につながることが期待されます。
◦マルチオミクス解析
最近ではDNA、RNA、タンパク質、脂質、代謝産物を網羅的に解析し、それぞれの枠をまたいで解析すること(マルチオミクス解析)が始まっています。
個別化医療の開発につながることが期待されます。
支援のお願い
日本では精神疾患の死後脳バンクとその研究は、欧米諸国に比較して大幅に立ち遅れています。
福島では全国に先駆け平成9年(1997年)に福島県立医科大学医学部神経精神医学講座が中心となり
“系統的な精神疾患脳バンク”
を立ち上げました。
福島ブレインバンクでは、自らの意思で自分の脳を精神医学の研究に役立てることを望む“生前登録”を、精神疾患の解明を望むすべての方々に呼びかけています。
福島ブレインバンクのホームページで活動内容を周知したり、啓発活動に努めています(※1)。
また、福島ブレインバンクの事業を支援する賛助会(つばめ会)もあり、生前登録はされなくても、賛助会会員となってバンク事業を支援することができます。
賛助会の問い合わせは、電話やメール、FAXでできます(※2)。
皆さんのご理解とご支援をお願いします。
※1 福島ブレインバンク
ホームページ: http://www.fmu-bb.jp/
電話:090-7322-8213
メール: info@fmu-bb.jp
※2 事業を支援する賛助会(つばめ会)
電話:080-9254-4410
Fax: 050-3737-9558
メール: bbdna.sanjyokai@gmail.com