特集1 自分の気持ちを大事にできませんでした


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自分の気持ちや感覚を大事にできなかったこと、今そのことをふり返ってどう感じているのか…。みんなの体験談です。


言い出せないまま保護入院に
(三重県)豆太さん

私が自分の気持ちや感覚を大事にできなかったなと感じたのは、体調不良で家族に相談したら、かかりつけの病院に連れていかれたときのことです。

最初は「先生に話を聞いてもらって、お薬を処方してもらったら大丈夫だろう」と考えていました。
しかし、いざ診察が始まってみると、先生から「少し入院して休みましょうか?」と入院治療を提案されてビックリしました。

●囲まれて言い出せない…

自分としては、
「在宅で、薬物治療や環境調整をして体調不良を治したい」と考えていましたが、先生や看護師、また家族に囲まれた状態で、どうしても自分の考えや意見を言いづらいと感じてしまって言い出せず、そのまま入院することになりました。

そして、医師から提案されたものの自分から入院をおとなしく決めたのに、任意入院ではなく、医療保護入院(※)になったことにも納得がいきませんでした。
抗議したい気持ちもありましたが、「抗議したら、また先生を怒らせてしまい、次は措置入院(※)にならないか?」と不安になり、何も言えませんでした。

その後入院治療を続けるにあたり、先生や看護師や家族が怖くて、本当の気持ちが言えなくなりました。
私としては後から入院してよかったと思えても、このことは心のしこりです。

※本人の同意による入院が任意入院、同意しない場合が医療保護入院、自傷他害の恐れによる行政命令による入院が措置入院(そちにゅういん)


昔の主治医と作業所で
(広島県)風の森さん

私は昔、飲食関係のA型作業所(就労継続支援A型事業所)で働いていました。
働いていた理由は、当時の主治医から、障害年金の診断書を書くかわりに必ず働くという「指示」を受けたからです。

●働き始めたら…

就労移行支援の方々からのサポートもあり、働き始めることはできました。
ですが、私が通っていたその作業所では、支援員は飲食店の仕事にかかりきり、また責任者も専門は障害者の支援ではなく、私達のことは何も知らないというありさまでした。
当然、仕事をするにあたり、支援を受けたことはありませんでした。
それどころか、体調不良のために休むと連絡をすると、無理をしてでも出勤するよう強要されたことすらありました。

「これでは身体がもたない」と主治医、作業所の責任者にSOSを出し続けましたが、双方から無視され続けました。
結果、私は心を病み、人を信じることがとてもむずかしくなりました。

●もっと早く

今ふり返ると、もっと早く当時の主治医や作業所を見限り、「これは異常だ」という自分の肌感覚を大事にすればよかったと後悔しています。
唯一の救いは、障害年金をもらえたことでしょうか。


解放されたい
(岩手県)藤枝脩平さん

私は25歳のときに埼玉県で就職し、配達をやることになりました。
入職してから半年は試用期間で、先輩について仕事を学ぶ日々でした。
私は、初めて住む埼玉で土地勘もまったくなく、配達のルートをまったく覚えられず、トラックの運転などにもさまざまな決まりがあり、頭が山火事でした。

6月のある日、副センター長から一対一で怒られました。
長時間の説教で疲労も限界で、「この仕事を続けるのはもう無理だな」と思いました。
副センター長から、「もう一度先輩に教えてもらって覚え直すか、一人で大丈夫か?」とたずねられました。
私は、「ここでハイと言わなきゃ、なぜできないのかと再び説教が続く」と思い、早くここから解放されたいと「ハイ」と言ってしまいました。

その夜は解放されましたが、結局出勤できなくなり、入院してしまいました。そして半年の試用期間で退職し、実家に帰りました。


恥や秘密を誰にでも 
(福島県)ゆめさん

私は、5年ほど前に精神科病棟へ4回ほど入退院をくり返していました。

●話さないと!

最初のうちはつっぱった気持ちでいたのですが、入退院するごとに心が弱っていき、また病院からの無言の圧力も感じて、
「自分の人生に起こったことを何もかも洗いざらい話さないとならない」と思いこむようになってしまいました。
しかもさらにつらいことに、「誰にでも正直に話さないとならない」と思ってしまいました。

●聴いてもらえない

その背景には「この人に聴いてもらおう」と心に決めても、入院中の患者への支援者さんの人手不足と多忙により、1人の支援者さんに、長期間ていねいに秘密厳守で話を聴いてもらうことが困難だったからです。(主治医の受診も、希望してもなかなか受けられない状態でした)

そのことにより、自分の恥や秘密を人を選ばずに話すことになってしまい、つらさが限界突破し、自傷行為をくり返してしまいました。

●今は

精神疾患になると、よく「何でも言ってね」とは言われますが、人には「言わない権利」も確かにあります。
自分がどうしても言いたくないことは言わないのも、自分を守る行為だと思います。


優先
(東京都)松﨑淳子さん

「家族のみんなに、私の病気や障害のことをよく知ってもらいたい。そして、私のことをもっとよく理解するよう努めてほしい」
これが、以前私が抱いていた強い気持ちです。
しかし、
「家族のみんなには、それぞれの生活があり、忙しいだろうから、そんなお願いなんてできないな」
と、自分の正直な気持ちを、家族に伝えることはできませんでした。

今そのことをふり返ると、
「もっと素直に、自分の気持ちを伝えるだけ伝えてみればよかった」と思います。
そして、その気持ちが受け入れられようが受け入れられまいが、私がそういう気持ちを持っているということを家族に知ってもらう、それだけでも、とても意味のある大切なことだと思うからです。

相手やまわりの人達の気持ちを優先してしまい、自分の気持ちを押し殺したり、蔑ろにしてしまったりしがちだけれど、勇気を出し、自分の気持ちを言葉にして伝えることは、相手やまわりの人達をも大事にすることにつながるのではないか、と私は思うのです。

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