特集8 災害時には、支援者こそ「受援力」が必要


特集8 災害時には、支援者こそ「受援力」が必要

東北大学大学院 医学系研究科 精神神経学分野
准教授 松本和紀

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受援力とは?
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「受援力」という言葉、もともとは災害時にボランティアを含めたさまざまな支援を受け入れる立場となった被災自治体や組織が、支援を受け入れて活用する力のことをさす用語だったようです。
 東日本大震災をきっかけにこの言葉は広く世に知られるようになりましたが、最近では、受援力の考えは、組織だけではなく個人にもあてはめて用いられるようになってきています。
 そこで本稿では、被災地の支援者の受援力について考えてみます。

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災害時には、誰しもがトラウマを受ける
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 支援者といえども、1人の人間です。
 災害によって、死の恐怖を感じたり、悲惨な場面にショックを受けてしまいます。神経が高ぶり、不眠、神経過敏、興奮、イライラ、高揚感などが出てきます。
 ぼうぜんとなったり、現実感を失ったり、記憶が断片的になることがあるかもしれません。悲惨な場面がフラッシュバックしたり、不快な記憶を呼び起こす刺激や場所を回避することも起こるでしょう。
 このようなストレス反応は、誰にでも起こることですが、多くは時間とともに自然回復します。
 しかし、こうした症状が長引いたり、くり返されると、苦痛感や生活への支障が続くことがあります。
 東日本大震災の被災地の支援者の中には、災害から5年以上経った後にも、トラウマに関連した症状が強く出ていた人達がいました。

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被災地の支援者の強いストレス
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 外部の支援者とは異なり、被災地の支援者は被災地を離れられません。自らが生活する地域が打撃を受け、身近な人や大切な物を失った支援者にとって、心理的に距離をとって支援を行うことはとてもむずかしいことです。
 さらに、自分や家族の衣食住などの生活基盤に不安をかかえながら職務を続けることの負担は、はかりしれません。職場も混乱し、普段よりも組織の力が弱まってしまいます。
 東日本大震災の被災地の支援者は、仮設住宅の住民よりも、ストレスによる症状が強く出ていたことが知られています。

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支援者にこそ支援が必要
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 普段、他者を助ける立場にいる支援者の中には、自分が支援を受ける側に立つことが苦手な人もいるでしょう。「もっとたいへんな人達がいるから」
「自分なんかが、甘えていては申し訳ない」
「自分が役立たずな感じで、情けない」
などと、支援を受けることに罪悪感を覚えたり、無力感から自尊心が傷ついてしまう人もいます。
 しかし、被災者としての立場と支援者としての立場で、二重にストレスを受ける地元の支援者にこそ、より多くの支援が必要なのです。

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助けられじょうずな支援者を増やしましょう
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 助けられじょうずの支援者が増えることは、地域全体の受援力を高めることに結びつくはずです。
 そのためにも、平時から職場や組織、地域や家庭で、災害時の受援について話し合い、対策を立てておきましょう。
 災害時には、誰しもが支援を受けることがあたりまえだということを皆で共有し、具体的に受援の計画を立てておくとよいでしょう。
 また、災害時のメンタルヘルスについての知識を持つことも大切です。
 そして、支援を受けることの意義を再確認しましょう。
 誰かに頼ったり、助けを求めたりするのは、相手の能力を認め、信頼している証拠です。相手のよいところを見つけ、頼れるところを頼ってみましょう。
 何をどのように支援してもらうとよいのか、相手ができる具体的なお願いができるとよいですね。
 また、誰かの支援を受けることを経験するのは、自分が誰かを支援するためにも役立つはずです。支援を受ける側に立つことで、どのような支援が本当に有益なのかを身をもって体験できます。
 日頃から受援力を意識しておくことが、支援者としての成長に結びつくのかもしれませんね。