うつ状態のときの過ごし方(医師)


「こころの元気+ 2016年4月号(110号)」より  ※「こころの元気+」とは?

特集4 うつ状態のときの過ごし方

社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院 院長
中村純先生

 統合失調症や器質性精神障害など、うつ病以外の精神疾患の人も、対人関係がうまくいかなくなったとき、仕事が忙しくなったとき、仕事を失ったとき、愛する人に不幸が起きたときなど大切な人や環境に変化が起こり、その事実を受け止められなくて、うつ状態となることがあります。
 むしろ精神疾患をもっている人はストレスへの対応能力が弱く、精神的に不安定になりやすい傾向があります。

 ところで、統合失調症の人が意欲低下を起こして、何もせず他の人との関わりを避け、部屋に閉じこもりがちになることがありますが、このような状態は通常、うつ状態とはいわず、自閉(ひきこもり)感情鈍麻などといいます。そして、統合失調症や他の精神疾患の患者さんも、うつ状態になると前述のようなうつ病と基本的に同じ状態が起こります。
 よって、このような状態になったら、うつ病の方と同じ過ごし方をすべきです。つまり、うつ状態であれば、その治療の基本は休養と薬物療法ということになります。
 ここでは休養のとり方について述べます。

環境を変えず負担を減らす
 まずは、仕事をしている人、通学している人、家事ができていた人であれば、それぞれ仕事量を減らす。
 症状が強い場合は、仕事を休む、休学する、家事などの負担を減らすなど、できるだけ休養できる環境をつくる必要があります。
 そのためには家族や同僚の協力が必要です。
 うつ状態は怠けではありませんので、ここで叱咤激励しても意味はありません。本人なりに努力はしているのですがエネルギーが減って思うように動けないのです。
 したがって、できるだけ環境を変えず、普段どおりの生活をするように助言します。

睡眠や食事について
 多くのうつ状態の人は不眠を訴えます。睡眠がとれるように睡眠と覚醒のリズムを保つ指導をします。
 多くのうつ状態の人は、寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めるという3つの不眠のパターンを示しますが、特に早朝に目が覚める人が多いので、抗精神病薬や抗うつ薬の他に睡眠導入剤を服用しなければならないこともあります。
 適度な運動、入眠前のあまり熱すぎない入浴習慣、部屋の明るさ、寝心地のよいベッドなど、睡眠がとれる生活習慣や環境づくりが必要です。

 お酒で寝ようとすると一時的には確かに寝つきはよくなりますが、かえって深い眠りが減り、夢を見る睡眠が早く出現するようになります。つまり、飲酒はうつ病の人と同じ睡眠パターンをつくるので、うつ状態はかえって悪くなります。「飲酒はうつ病をつくる」ともいわれています。そこで寝酒の習慣がある人は、断酒すべきです。 

 また、うつ状態になり食欲低下が起こった場合、可能なかぎり食べるようにします。最初は好きなものだけ食べても評価するのも一つの方法だと思います。

できることから
 うつ状態であれば、何事に対しても決断がむずかしくなりますが、結論は出さずに先延ばしをするようにします。
 うつ状態のときに決めたことは判断が誤っている可能性があります。
 他人と比べることをせずに、自分ができることから始めて自信をつけることです。

 うつ状態には気分の波があり、朝方、気分が悪いことが多く、夕方になると少し楽になる人が多いようですので、そのような気分のリズムにあわせて生活するのも一つの方法ではないかと思います。

 また、うつ状態が回復するときは、三寒四温ということがいわれており、少し気分がよくなったり、悪くなったりをくり返しながら改善していきますので、気分の変動に一喜一憂しないようにすることが大切だと思います。
 したがって、患者さんは嵐が過ぎ去るのを待つような態度で、できることだけは行うような態度で過ごすのが一番ではないかと思います。

 うつ状態は、3か月から6か月間は治るまでに時間がかかると思って気長につきあうことが重要だと思います。