年をとれば


「こころの元気+」2017年3月号への投稿より →「こころの元気+」とは

年をとれば / 名倉マミさん 東京都

十年前の自分と今の自分とを比べて、「リカバリー」しているのかどうか? わかりません。一進一退という感じです。

ちょうど十年ほど前でしたか、自称うつの人から、「君もぼくと同じような病気なの? 年をとればとるほどひどくなるよ」と言われたことがあります。
数年後、そのことを当時信頼していた臨床心理士に伝えたら、「そんなの当たり前でしょう。誰でも年をとればとるほど、背負っているものが大きくなるんだから」と言われました。

その時はただ気持ちが重くなっただけでしたが、今にして思えば、そんなことは嘘です。人や状況によります。
ただでさえ心身が不安定な患者を絶望のどん底に突き落とすようなことを言うなんて、同じ患者ならばともかく、医療者として失格だと思います。

十年前、またはその臨床心理士にかかっていた頃は、自分が本当は何を望んでいるのかもはっきりせず、行動範囲や交友関係も狭く、自分の思いや考えを世界に向けて発信することにも自信が持てず、時には死にたくもなりましたが、今はそうではありません。

「年をとればとるほど背負っているものが大きくなる」という考え自体はその通りかも知れませんが、それは、「病気が悪くなる一方である」とか「悲しみや苦しみなどの負の経験や、わずらわしいことばかりが増える」ということとイコールではないはずです。

昨年(2016年)、生まれてから四十年近く離れたことがなかった京都府の地元から、単身、上京してマンション暮らしを始めました。大袈裟な言い方ですが、やっと本当の人生が始まったような気すらしています。
特に長生きしたいとは思いませんが、かといって、死にたいとも思いません。昔のようには思いません。

心の病気を患う人に限らず、自分と同じようにこの社会で生き辛い思いをしている人を、
「年をとれば快復すること、打たれ強くなることだってありますよ」
「人は年をとればとるほど、いろんな経験をして、いろんな人との出会いがあるから、賢くなるし、痛みを分かちあえる、担いあえるようになるんですよ」
と、あたたかな希望の光で照らしてあげられる人間でありたいと思います。