認知行動療法の進め方(医師)


こころの元気+ 2010年8月号特集より


特集4
認知行動療法の基礎知識


認知行動療法の進め方

国立がん研究センター東病院臨床発センター精神腫瘍学開発部
藤澤大介


認知療法のあらまし

認知療法(認知行動療法)は、「人の感情が、状況や物事をどのようにとらえ(認知)、どう行動するか、によって影響を受ける」という理解に基づき、ものごとの受け止め方の幅を広げたり、行動のあり方を見直したりすることによって、気分を改善させる精神療法(カウンセリング)です。

具体例で説明しましょう。
あなたは道を歩いていて、向こうから歩いてきた友達に気づいて手をあげてあいさつしたのですが、相手はあなたには目もくれずに、過ぎてしまった場面を想像してください。どんな気分になるでしょうか?
「無視された」と思うと、悲しくなります。「何か相手を怒らせるようなことでもしたのだろうか?」と思うと、不安になります。
これが、物事の受けとめ方(認知)が、気分に影響した例です。
さらに、しょげかえって、このことを誰にも話さずに一人で考え込んだら、さらに気分が落ち込むでしょう。
これが、行動が気分に影響した例です。

でも、ちょっと落ち着いて別の可能性を考えてみましょう。
「体調が悪かったのかもしれない」、「人違いしたかもしれない」などと考えてみると、少し気持ちが楽になりませんか?
さらに少し勇気を出して、その友人に直接話しかけてみたらどうでしょう?
もしその友人から「ごめん、考えごとをしていて気づかなかったよ」などという答えを聞ければ、さらに安心できますし、そこから会話が広がるかもしれません。
これが、「ものごとの受けとめ方の幅を広げたり、行動のあり方を見直したりすることによって、気分が改善できた」例です。

具体的には、思考記録表と呼ばれる、考え方を整理するシートを使う方法(コラム法)、活動記録表と呼ばれる、自分の日常生活の行動を見直すシートを使うことが多いです。
治療は、医師やカウンセラーの指導を受けながら行うことが一般的ですが、自主学習教材を使うこともできます。医師やカウンセラーの治療と、自主学習教材を併用することも有効です。


認知行動療法の効果とは?―認知療法の効果と薬との併用について

慶應義塾大学医学部精神神経科医員
菊地俊暁


認知療法の効果

認知療法の効果については、さまざまな研究で証明されています。
特に、うつ病の症状が長く続いている場合(慢性化といいます)や、うつ病を何度も患う場合(再発といいます)には、薬と比べても同じかそれ以上に有効であると報告されています。
では、いったい認知療法は、どのようなことに対して有効なのでしょうか。

ネガティブな思考を修正することができる

前の項でもふれていますが、認知療法は患者さんの持つネガティブな思考を修正して、気分を改善する効果があります。
たとえば会社で働いているときに、上司にあいさつをしても返事がなかったとします。
そのときに、「こちらを見もしなかった。きっときらわれているにちがいない」と思えば、気分は落ち込んでしまいます。
しかし、そこでネガティブになりすぎず、冷静に考えてみます。
たとえば、「今日は会議が多くて余裕がないと言っていた」、「仕事に集中して聞こえていなかったのかも」という具合です。すると、きらわれている、という考えは弱くなり、気分的にも改善してきます。
このようなネガティブな思考の修正を、客観的に見ている治療者とともに行うことで冷静にできるようになり、また繰り返すことで徐々に自分だけでも修正することが可能となっていきます。
認知療法の効果が、最も期待できる部分です。

行動を活性化することができる

そして、思考を修正したうえで、行動に移していきます。
思考は一度修正しても、「でもやっぱりきらわれているのでは」などと頭に浮かんでくるものです。
その考えのために、自分から上司に話しかけることをしなくなると、心理的な距離が生まれて疎遠となってしまい、結果的に「きらわれている」という考えをさらに強めていくことになります。

そこで、思考を修正したところで、実際に何らかの行動を起こすことを治療者と決めていきます。
たとえば、仕事の内容で上司に質問をしてみたり、後で昼休みに上司に話しかけてみたりといった行動です。他の人に、今日の上司の機嫌を聞いてみるのもよいかもしれません。

このように、思考を修正し、実際の行動につなげていくことは、なかなか一人でできることではありません。
治療者と一緒に行うことで、目標を設定し、少しずつ行動を試せるようになります。
これも、認知行動療法の効果の一つであると考えられます。

薬との併用

では、認知療法が有効だからといって、薬をのまずに認知療法だけ受ければよいのでしょうか。
残念ながら、必ずしもそうとはいえません。
やはり薬物療法と一緒に行っていくほうが有効であると考えられています。
薬によって脳内の物質がバランスよくなり、また認知療法によってネガティブな思考を修正したり、日常のストレスへの対処がじょうずになったりといった相乗効果が期待できます。
同じ改善であっても、薬と認知療法では脳の反応する部位が異なるということも報告されています。

一つの治療法にこだわらず、よいと考えられる治療を柔軟に選択していくことが、大切となっていくのではないでしょうか。