抗精神病薬の適正な使用について(医師)


こころの元気+ 2014年3月号特集より →「こころの元気+」とは


特集5
抗精神病薬の適正な使用について

独立行政法人国立国際医療研究センター
国府台病院 精神科
佐竹直子

昨年10月に国立精神・神経医療研究センターから「抗精神病薬の減量法ガイドライン」としてSCAP法による抗精神病薬減量支援シートが発表されました。
これは、おもに統合失調症や双極性感情障害の治療薬である抗精神病薬の処方内容を適切なものに調整するやり方について書かれたものです。

このようなガイドラインがつくられた背景には、日本の抗精神病薬の処方が諸外国と比較し、種類、量ともに多く、安全で効果的な使用になっていないということがあります。
かつて、抗精神病薬は複数の種類をブレンドして使う、また大量に使うのが効果的であると考えられていた時期もありました。しかし最近では、量を増やせば増やすほど単純に効果が増えるわけではなく、適量があることがさまざまな研究で実証されてきました。
また薬の副作用をなるべく抑えて、身体や生活への影響を減らすことの重要性がより着目されるようになってきました。

諸外国ではすでに、できる限り薬の種類、量ともに少なくする処方がスタンダードになっており、最近では日本においても、処方薬の単剤化(1種類の抗精神病薬を処方すること)・少量化に取り組む動きが増えてきました。
しかし一方で、症状が安定した状態を保ちながら薬を減量することは簡単ではなく、減量に躊躇(ちゅうちょ)してしまうこともありました。そこで、安全かつ安心できる減量のやり方を複数の医療機関で科学的に検証し、今回のガイドライン発表に至ったのです。

このガイドラインは当事者に対するものではなく、あくまでも処方を行う医療関係者向けです。
薬の減量を希望していても、ご本人やご家族だけで利用することはおすすめできません。主治医を含む担当の医療スタッフと一緒に取り組むことが必要です。

なお、処方がなかなか減りにくい原因はいくつか考えられます。
一つは統合失調症や双極性障害などに対するアプローチは、薬物療法と心理・社会的な援助とのコンビネーションが効果的なのですが、治療者も当事者も薬物療法に対する期待がやや高かったことがあるかと思います。
薬物療法はたしかに効果的ではありますが、万能ではなく、すべての症状や生活上の困難を解決してくれるわけではありません。
病気のことを知り、ストレスのコントロール術を身につけたり(疾患教育など)、生活上の困りごとに対して、孤立せず一緒に解決してくれる人やサービス(ケアマネジメントなど)を積極的に利用していくことが大切です。
薬に過剰に頼らず、「薬を増やす以外に、何かこのつらさを消す方法はないか?」を一緒に考え、積極的に取り組む姿勢が大事です。

医師とどうつきあうか

また、処方に対して治療者任せにせず、一緒に考え決めていく姿勢も大事です。
シェアードデシジョンメーキングという取り組みが最近注目されています。薬の効果や副作用などの状況を当事者が治療者に伝え、その人の生活に合った処方内容を一緒に決めていくやり方です。
治療者は専門家として薬物についての情報や、本人の希望にできるだけ沿った処方プランを提示し、よりよい処方を一緒に考え決定します。

このやり方は、治療者の薬物療法に対する取り組み方を変えていく必要もありますし、また、当事者が自分の処方や症状についてより把握し、きちんと治療者に情報を伝えることも重要になります。
よりよい処方が選択できるだけではなく、当事者が治療に積極的に向き合うこと自体が効果を生み出すと考えられます。

まずは、ご自分の処方を見てみましょう。
どのような薬が使われていて、ご自分がどのような効果や副作用を感じているのかを把握し、そしてそれを主治医に伝えてみることから始めてみましょう。