家族はどうしたらよいのか(専門職)


こころの元気+ 2014年10月号(92号)特集8より


フィルターをはずして ~まわりの人はどうしたらよいのか~

SSTリーダー 高森信子

Aさん(母親)の相談です。
「娘の主治医が『娘さんがキレるのは、生まれつきの性格かも知れませんね』って言うんですよ」と絶望的な表情で突然話し出しました。
Aさん夫婦はとてもおだやかで、娘さんにも協力的な姿勢で接しておられるのだろうなと感じていた私なので、「ちょっと待ってください。娘さんのキレる経緯をもっとくわしく聞かせてください」とお願いしました。
よくよく聞いてみると、娘さんがキレるに至った経緯はこうでした。

娘さんは30代。高校を卒業以来ひきこもり状態で発症。
プライドが高く病識なし。昼夜逆転、通院拒否、服薬も母親のAさんの気づかいで何とか続けている、という方です。
この娘さんが、2か月前急に「高校時代にやったアルバイトならできるかもしれない」と言って、知り合いのお店へ自分で行き、週2日、午前中2時間の仕事を決めてきたそうです。
誰が見ても楽な仕事なのに、2か月で辞めてしまったそうです。その理由を聞いたら、「店長がいろいろ指図する。品出しの仕事って言ったのに、ゴミ出しまで命令する。他の同僚には注意しないのに私ばかり注意する」と次から次へと悪口を言ったそうです。
Aさんが「仕事って、皆そうなんだよ」と言った途端、キレて暴れ出したというのです。話は最後まで聞かないとわからないものですね。

行動には理由がある

まわりの人に理解できない行動というのは、必ずその前にその行動を起こさざるを得ないエピソードがあるのです。
主治医の先生はそこまで話を聞かなかったので生まれつきの性格かもとおっしゃったのでしょう。

私はAさんに「娘さんは、自分のつらかった気持ちをわかってほしかったのですよ。
親から見たら『楽な仕事なのに』と思っても、長い間病気という生きづらさを持ちながらも、我が家という閉鎖的な温室の中だけで、時には女王様のように親を操作できる、いわば自分中心の生活をしてきた方からすれば、この2か月の就労体験はどんなにたいへんだったか、つらかったか。
それを先に受け止めて、共感することが大事なんですよ。
その後から、『そんな仕事をよく2か月がんばったね。金メダル級だよ』とほめること。そうすれば、娘さんはキレなかったでしょう。
娘さんは生まれつきの悪い性格を持っているわけではなく、あなたから期待外れの言葉を受けて、対応ができなかっただけのことと私は思います」と言いました。
Aさんは「そうだったのですね。よく考えてみると、いつも私は娘を言い聞かせねばと思って、娘が変なことを言うたびに『普通はそうじゃなくて、これこれなんだよ』って言っていました。
そしたら娘が『普通って何よ。二度と言わないで』と怒ったんです。
私がいつもマトモにせねばと思っているのが先行してしまうんですね」と気づかれました。

親からすれば「常識を知らない子だから」「心の病気だから」「キレる子だから」「依存する子だから」「なまけているんだから」等さまざまなフィルターを通してご本人を見ていることが多いと思います。
これはとても残念なことです。
それがあるために、常に説得せねば、指導せねば、助言せねば、の姿勢が生まれるのでしょう。
それが、親子間の信頼関係を壊す「トラブルのもと」と考えられます。
決めつけをやめ、フィルターをはずして、今のご本人を正視して寄り添ってあげてください。
きっと元気になっていきます。


高森信子(たかもり のぶこ):SSTリーダー
長年にわたり家族SST(相手に回答や理解をしてもらえるように行動や言動を訓練すること)を開催し、現在、病気の人への接し方に特化した研修会を年間で300回開催。そのほとんどは口コミで評判が広がり、全国各地で研修会を行っている。その効果の高さから、高森マジックとも呼ばれる。