特集3 「休む」=「寝ている」ですか?


特集3 「休む」=「寝ている」ですか?
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著者:功刀浩
(帝京大学医学部 精神神経科学講座)

休息をとることが、基本的に病気の療養に必要であるのはいうまでもありません。
たとえば、風邪をひいて熱を出した場合には、家で数日間寝ているのがよく、ウォーキングなどはしないほうがいいでしょう。

「休む」ということ

精神疾患ではどうでしょうか?
精神疾患でも特にうつ病などでは、医師から「休んでください」と言われることが少なくないと思います。
これは「うつ病が“なまけ病”であって、日頃の努力が足りないからもっとがんばらなくてはいけない」といった患者さんにありがちな考え方を修正し、うつ病は、なまけ病ではなく、身体の病気と同じように休むことの必要性を説くという点で、重要な意味があります。

しかし、うつ病などのストレス性精神疾患にとって「休む」ことは過度のストレスから解放されるための「心の休息」が中心であって、日中も臥床する(寝床に入る)など、身体を休ませることはありません。

仕事量が多すぎて発症した人の場合には、仕事量を減らして適度に休憩できるようにする、
出勤が困難なまでに疲れ切った患者さんには、自宅療養をすすめる、
人間関係の葛藤が強い場合は、葛藤状態にある人との関わりを減らす、
といった方法で「心の休息」をとるように促します。
この際、家で寝ている必要はありません。

逆に、うつ病ではウォーキングなどの運動療法が有効であることを示す研究結果が蓄積されてきており、うつ病になった後にも運動したほうがむしろ治療的であることがわかっています。
有名な『カプラン臨床精神医学テキスト』という全世界の精神科医が使っている教科書の中にあるうつ病の治療にも「休養」という言葉はほとんど出てきません。
日本うつ病学会のガイドラインでも、「心の休息」という記載はありますが、「身体まで休ませることが有効である」ということは書かれていません。

うつ病の患者さんは、入眠困難や中途覚醒があるなど夜は十分に休めない一方、日中は身体を動かすのがおっくうであるため、活動性がとぼしくなります。
つまり、休むべきときにしっかり休んで、動くべきときに動く、ということができなくなっている病気ともいえるのです。
その状況において、日中も臥床して休んでいると、ますます昼と夜の区別がつかなくなってしまいます。

さらに、身体を動かさずに寝ていることはさまざまな害があります。
体力や筋力を減らす、内臓脂肪を増やす、エネルギー消費が少ないために肥満・メタボリック症候群・糖尿病などのリスクを高めるといったことです。
肥満・メタボリック症候群・糖尿病は、うつ病の予後(経過)を悪化する要因であるだけでなく、認知機能も低下し、職場復帰などの妨げにもなります。
いうまでもなく、心臓病や脳卒中、認知症などのリスクも高めます。

いきなりできなくても

ただし、うつ病の人が運動するのはなかなか難儀なことです。
最初から「40分ウォーキングしてください」と言っても、できる方はまずいらっしゃいません。
ですから、最初は1日のうちで一番調子のよい時間帯に5~10分の運動をしていただき、それを週に3回以上やってもらうようにして、1、2週間続いたら次は10~15分、というふうにスモールステップで運動量を増やしていただくようにしています。
運動ができるようになると気分もよくなります。
好循環が働いて身体がますます動くようになってくると、うつ病も回復していきます。
そうした運動習慣が身についた人は、再発リスクも低くなります。

●他の精神疾患でも
今回述べたことはうつ病だけでなく、双極性障害や統合失調症にもあてはまります。
これらの病気も過度のストレスが病気の経過に悪影響を与えることが多いので、「心の休息」は大切ですが、昼の活動すべき時間帯に「身体の休息」をすることはむしろ避けたほうがいいでしょう。

最後にもう一言。
運動はウォーキングなどより、スポーツクラブなどに入って趣味として楽しめるようになると続けられやすく、友人などとの交流を通じて、心の病への効果もさらに大きくなることが期待できます。

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