減薬という旅の彼方に2(171号)


減薬という旅の彼方に2 ―頼りすぎない、恐れすぎないために正しい知識を 
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新連載 第1回 こんな連載を始めます

著者:小林和人(特定医療法人山容会理事長・山容病院院長)

自己紹介
私は山形県酒田市に住む精神科医です。
私が就職した2008年頃は、山容病院では多剤併用処方が多く、それまで他の病院で見たことがないほどでした。
「その状況を変えたい」という気持ちは院長となってからも変わらず、継続して減薬に取り組んできました。
とはいえ特殊な方法ではなく、あくまで一人ひとりと向き合って、それぞれの状況に応じて減らしました。

患者さんとの減薬の物語だった以前の連載

以前に同じタイトルで『こころの元気+』に連載したことがあります(※以前の連載について→コチラ)
そのときは特定の患者さん達との減薬に関する物語を書き、なぜ多剤併用となってしまったのかという経緯、減薬に取り組むことへの患者さんの不安、支援者の熱意などを強調しました。

周囲とのコミュニケーション、治療を含めた個人史についての記載が多かったのです。
コミュニケーションがとぼしい中、何かを訴えると薬が出てしまい、減ることはなかなかない。
いわゆる「足し算の文化」と私が呼ぶものを描きました。
リスク(危険)を恐れすぎてベネフィット(利益)を失う、バランス感覚を欠いて守りに走ってしまう、そういった合意形成のあり方への疑問を投げかけた、という面もあります。
しかし今思い返してみると、実際に減薬を進めることができた背景には、一定の方法論がありました。
「絶対に悪化しない方法」はありませんが、「なるべく悪化しないような減らし方」はあります。

今回の連載では

今回の連載では減薬に関する基本的な情報提供をやりたいと思います。
サブタイトルにもありますが、読者の皆さんには『薬を恐れすぎない、そして頼りすぎないようになっていただきたい』です。

認知行動療法の普及などによりだいぶ変わってきましたが、やはり精神科に通うと薬がたくさん出される、極端な言い方をすれば薬漬けにされる、そういった評判もいまだに見受けられます。
『火のないところに煙は立たず』という言葉のように、もしかしたら実態としてそのようなことが一部にあるのかもしれません。

減薬が怖くなるのは

たとえば睡眠薬を減らしたら眠れなくなってつらい思いをした経験はありませんか。
それをきっかけに、薬を減らすのが怖くなるということもあり得るでしょう。
また逆に、「眠れないから」と相談して薬を追加してもらったら、次の日なかなか起きられず頭が痛かったり。
そういった経験をすると、薬を減らす、あるいは薬の相談をすることが怖くなってしまいます。

対策として

その対策としては正しい知識を持つことです。
もちろん診察場面で医師は、処方を変えることのメリットとデメリットを説明するでしょうし、するべきです。

しかし患者さんは診察場面で緊張してしまい、言われたことがすぐ頭に入らないかもしれませんし、急にその場で意見を聞かれても困ってしまうでしょう。
やはり日頃から、自分ののんでいる薬に関心を持ち、種類や効果、副作用を調べておくことが大切です。
そうすれば冷静に話が聴けて、より正確に意見を伝えられると思います。

次号からは皆さんのそういった学びに役立てるよう、精神科の薬をいくつかのカテゴリーに分けて、それぞれの特徴を示していきます。
そして、それらの薬について相談するのに役立つ知識、あるいは今まで私が臨床で経験して学んできたコツのようなものをお伝えします。
ご期待ください。


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こばやしかずと

●山形県酒田市に住む精神科医です。
多剤併用を見過ごせず縁のない土地へ移り、理事長、院長、臨床医の三役に全力で取り組んでいます。
「のむ治療から学ぶ治療へ」を掲げて、依存症治療を積極的に展開し、診療の幅を広げています。
趣味はマウンテンバイク、四児の父です。

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