典型的な事例と対処法4


精神科を紹介されるときは、いろいろな身体症状の原因が他の科では治らなかった場合です。いろいろな可能性を否定した後、初めて精神科にかかることにしましょう。

精神科にかかる前に、たいがいの人がすることは以下のようなことです。
いろいろな人や医師に精神科に行くべきか相談する
精神科の知識を集める
紹介された病院の情報を集める
初めて精神科にかかってみると、「おや」と思うことがあります
主治医が、世間を知らないので、困ってしまう

そこで、このように対処することもできます。
通院する病院を代えることも可能だった

精神科にかかって、はじめの頃は外来ですみます。
薬を処方されたら、決められた分だけ飲む
薬を飲むと体が辛くなるので、それを主治医に訴えて、自分にあった薬を探してもらう
次の予約を入れられることが多いので、その時には通院する

精神科の初診では、どんなことが聞かれて、どんな風に振る舞えばいいのでしょうか。
睡眠や過ごし方について聞かれます
精神科の症状と思われることを素直に話します
精神科と関係ないかもしれない症状についても話します
ここのところどうやって過ごしているか、話します
気圧や気候の変化と体調について話します

それから、精神科でも症状や薬物療法にともなって必要になる医学的な検査があります。

こちらから依頼しないとしてくれない場合があるので気をつけましょう
血液検査、血圧の検査をしてもらうよう依頼する

 

経験談を「こころの元気+」から見てみましょう

筆者の所属は執筆時の所属先です。


兄は病気であることを受け入れられません


Q 私の兄は統合失調症です(現在五二歳。三〇歳前に発症)。ところが、病気であることを否定しています。

病気を否定する兄に対し、家族はどう接したらよいのでしょうか。この雑誌に投稿される方々は、ほとんど皆さん病気を受け入れておいでの様子ですが、兄は、「自分は病気ではない、病気扱いするな」と、時には暴力までふるって怒ります。
かつての「分裂病」という名前が、すごくダメージを与えたのだろうと思います。
医者にかかって薬はきちんとのんでいますが、それは「最初に無理に薬をのまされ、薬をのまないとぼうっとするようにさせられたからだ」と主張しています。
疲れると関係妄想が現れます。それを否定したり、病人扱いすると、時には暴力もふるって「自分の方が正しい」と怒ります。
社会生活の面でも、細かいところにこだわって腹を立てやすく、うまくいかないことが多いです。父親は老齢になったこともあり、兄には没交渉。母親は、生活面では中学生の子どもを相手にしているような感じで接し、妄想は無視しています。
こういう場合、やはり本人の気持ちを尊重して、「病気じゃないね」、本人の妄想も「ホントにそうだね」、とこちらが受け入れないといけないのでしょうか。
妄想の話を聞くと、あまりに独善的で、他人への怒りに満ちているので、ふんふんと聞いてあげることができないで、苦しくなってしまいます。
しかしそれを否定しないと、私の方の精神が、他人への猜疑心や嫌悪、差別意識といった毒をどっぷり浴びせられて、どす黒い気分になってしまいます。


A 相手を主語にして話す/ゆーなさん(千葉県)

相談者さんのお悩み、つらいだろうとお察しします。
私の夫はうつ病で、治療を始めて二年九か月になります。私も相談者さんのように、夫の自己中心的に聞こえる発言や他罰的な言葉に傷つき、悩んだ経験があります。
そんな私が救われたのが、
「問題を抱えているのは、あなたではなく話し手」
という言葉です。
お兄さんが「自分は病気じゃない」と話したとします。
そのときに、自分の気持ちに嘘をついて「ほんとにそうだね。私もそう思う」という形で合わせるのでなく、「お兄さんは、自分が病気じゃないと思うんだね」と相手を主語にして返してあげてください。
そのかわり、自分が感じたことを話すときには必ず「私はこう思う」と私を主語にします。そうすることで誰の話であるかをはっきりさせ、私は自分の気持ちが、夫の苦しみに引きずられるのを防いできました。
家族だから聞かなければならないと、自分のがまんの限界をこえた話を抱え込まなくていい、と夫のカウンセラーに言われたことがあります。病気とのつきあいは長期戦です。信頼できる友人や病院の相談員に話すなどして、自分の気持ちを少しでも軽くしながら、一緒にがんばりませんか。


A 入院も一つの選択肢です/榎田伸也さん(奈良県)

私にも、あなたのお兄さんと似た経験があります。
二二歳で統合失調症を発症してから、かなり暴れたり、暴言をはいたりして、相当家族を困惑させる日々が続きました。
「もうこの状態じゃあ、一つ屋根の下では暮らせないね」
ある日、母がそのようなことを言いました。私は、当時かなり混乱していたので、正直この言葉には強い抵抗感を感じました。
しかし私が二六歳のとき、外出先でひどく暴れてしまい、「医療保護入院」で入院することになりました。
今思うのですが、私は、「医療保護入院」でも、きちんと患者さんの「人権」は守られると思っています。電話や面会、手紙の授受も自由にできました。たとえ家から離れていても、私への家族の愛情が身にしみて伝わってきました。
あなたのお兄さんもきっと、誰にもわからない、「悔しさ」や「さびしさ」を抱えておられることと思います。「医療保護入院」も決してマイナスではなく、長い目で見たらきっとプラス体験としていきると思います。
私は「入院」を否定的にとらえず、一つの「選択肢」としてお考えになったらいかがかと思います。


A おしたり引いたりしてみる/まつもとあけみさん(滋賀県)

あなたは、とても家族思いのやさしい方ですね。長い間悩んでいらして、今までの苦労もたいへんだったと思います。
まずはじめに、コンボの書籍の高森信子先生著「あなたの力が家族を変える」を読むことをおすすめします。
家族の対応によって、再発率が、60%から6、7%まで変わるそうです(二〇ページ参照)。
私はうつ病患者ですが、家族と接するとき、心がけて使っていまして、実践中です。
私の経験なのですが、最初に「軽うつ」と診断されたとき実家に帰り、バスに揺られて三〇分の県立精神保健センターで、カウンセリングを受けました。
絵を描いたり、箱庭療法も少ししました。私はそこで人生が変わるような素敵なカウンセラーに出会いました。一八年たった今でも、失礼とは思いながら連絡をとっています。
以前にも述べましたが、病院ではなくてもいいんです。いろんな人に相談して話し合いながら認め合い、病気を軽くしていくところです。ご家族で出かけてみてはいかがでしょう?
お兄さんへは、「私は兄弟げんかを減らしたいし、両親とももう少し仲よく暮らせるようになりたいと思わない?」と、提言してみてはいかがでしょうか?
それがだめなら、本誌をお兄さんの眼の届くところに置いてみたりするのもおすすめです。
最後に、私事ですが、息子が小学校三年のころ、
「僕は死んでいなくなったほうがいい。僕がいなくなったらお母さんはゆっくり休める」
といって、アパートのベランダ側に向かって飛び出したときは、市の家庭子ども課の元学校カウンセラーの方が自宅まで来て、本人と私の相談に乗ってくださいました。
「おしたり引いたり」してみてください。いろいろ試す余地はあると思います。ご家族みんなで取り組むのが一番いいと思います。「押してダメなら引いてみな」です。きっと大丈夫だと思います。お兄様思いで、家族思いのあなたが、この雑誌を手にしているのですから。


A 時間をかけて病気を理解する/小松達也さん(千葉県)

質問文を読んでまず感じたことは、「待つしかないな」ということです。お兄様は、「まだ」受け入れられないのです。しかし、いずれ受け入れられる日が来ると思います。
というもの、私も病気を受け入れられなくて、苦しんでいました。自分で何かおかしいということはわかってい
ましたが、「病気」だと認めることができませんでした。しかし、家族は「トコトン待つ」という姿勢を示してくれました。その待ってもらっている間に、私は自分と向き合い、自分になることができました。
私の家族が、「待っている間」どれほど苦しかったのかは、本当のところわかりません。なので、簡単に「待つしかない」と言ってはいけないのかもしれません。しかし、今、当事者の私に言えることは、「待ってもらうしかない」ということです。
ご家族もお兄様も、病気に対する正しい知識をなるべく多く、身につけることが大事だと思います。知識で、頭を埋め尽くすというぐらいになれるといいです。
何事にも当てはまりますが、何かを得るには知識に裏付けされた体験が必要です。
病気に関する体験は否応なしにできますが、知識のほうが遅れがちになります。その知識を、お互い「待つ」間に身につけることが重要だと思います。


A 自分の問題を自分で解決する/エリザベスさん(奈良県)

統合失調症になって九年目、私が、自分の病いを認めようという気持ちになったのは二年前です。
それまでは、おかしいのはまわりの人たちだとまじめに思っていました。そんな私が、病いを認めようと思ったのは、薬が効いて気持ちが落ち着いたこともありますが、自分でインターネットや書籍で勉強したり、クリニックに置いてあった「こころの元気+」を読んで、自分と同じ気持ちや症状の人がたくさんいることを知ったりしたことです。
私は「させられている」感じがきらいなので、自分で気づくことに時間がかかりました。病人や子ども扱いもきらいです。誰かが私に病気をわからせようとしていたら、もっと意固地になっていたかもしれません。
病気のせいにすると、気持ちが楽になります。相手の話をしょい込むと苦しくなります。自分の問題は、自分で解決していくしかない、そのための手助けくらいは手伝ってほしいと思います。「こころの元気+」を目につくところに置いておくとかわかってくれればラッキー、そうでなければ少しずつくらいに思ってくれればいいと思います。
私も、怒ったり人のことを考えているときは苦しいので、そういうときは、どうしたら楽になれるかを手伝ってくれる人がいるといいと思っています。


2009年9月号こころの元気+ おこまりですかでは他の人に聞いてみましょう より