うつ病と睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害


「こころの元気+」2018年7月号(137号)より  ※こころの元気+とは→コチラ

でも先生、ガイドラインにはこう書いてあるんですが…
わかりやすい「うつ病治療ガイドライン」

杏林大学医学部精神神経科学教室 講師 
坪井貴嗣

第12回 うつ病の睡眠障害とその対応 

うつ病の経過において、睡眠の問題は初期から高い頻度でみられる訴えの一つであり、睡眠障害は、うつ病の診断を行ううえで重要な症状です。
うつ病患者のほとんどが睡眠の問題をもち、80%以上で不眠、10~20%で過眠がみられるとされます。
また、うつ病と診断され治療を行っても、不眠は症状としてしばしば残存することが知られており、積極的な治療が求められます。
このように睡眠障害は、うつ病の経過をみるうえで非常に重要な症状であり、今回、独立して扱います。

原因確定を慎重に

睡眠障害は、うつ病の経過において他の症状に先行して出現することがしばしばあります。 その結果、睡眠障害に気分の落ちこみや焦燥感、倦怠感などを伴った時点でうつ病を念頭に考えることはもちろん大切です。
しかし、「原発性睡眠障害」と呼ばれる純粋な睡眠疾患のために、うつ病とよく似た症状が出ている場合があるので注意が必要です。
ここでは、特に注意すべき原発性睡眠障害をあげます。

○睡眠時無呼吸症候群

読んで字のごとく「眠っている間に呼吸が止まる病気」ということです。 症状として、著しい不眠や起床時の疲労感、爽快感の不足、日中の眠気が発生します。
また、時に不安や気分の落ちこみがみられることがあります。
そして睡眠障害の治療としてベンゾジアゼピン受容体作働性の睡眠薬を使用したことにより、舌の筋肉がゆるみ、舌がそれ自体の重みで喉の奥に落ちこんでしまうことがあり、これにより気道がせばまってイビキをかいたり、閉塞して無呼吸になったりすることがあります。
このように睡眠時無呼吸症候群はうつ病と症状が似ているだけでなく、うつ病の治療中に合併し、よかれと思って服用した睡眠薬で症状が悪化することがあるため、注意しなければなりません。

○レストレスレッグス症候群

レストレスレッグス症候群は、「むずむず脚症候群」や「下肢静止不能症候群」とも呼ばれ、おもに脚に不快な症状を感じる病気です。
夜眠ろうとベッドに入ったときや、新幹線や飛行機、あるいは映画館などでじっと座っているときに、脚の内側から不快感が起こり、脚を動かすとやわらぐといった特徴があります。
症状としては、入眠障害や熟眠障害、日中の眠気や疲労感がよくみられ、時に不安や気分の落ちこみが出現します。
そして、うつ病の治療に用いる抗うつ薬により誘発されることがあり、睡眠時無呼吸症候群と同様に、鑑別(見分ける)だけでなく、治療中に合併して症状の悪化につながることがあるので知っておかなくてはいけません。

うつ病の不眠に対する治療

もちろん不眠といっても、うつ病の症状の一部ですので基本的にはうつ病の治療に準じて行うべきです。
そのうえで特に不眠に対しては、
①睡眠衛生指導、 ②薬物療法や認知行動療法
を行うことを推奨しています。

①睡眠衛生指導のポイント

□寝床では、音・光はなるべくシャットダウンする
□毎朝決まった時間に起きる
□眠るための飲酒は、夜中に目が覚めやすくなるため止める
□就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙を避ける
□寝る直前に体温が上がる行動 (入浴、熱いものを飲む)はしない
□アラームをセットして夜中には時計を見ない
□昼間の悩みを寝床に持っていかず、メモを枕元に置いておき、夜中に気になれば書いておく

②薬物療法の注意点

●睡眠薬は必要であれば短期で用いることはあるが、長期間・漫然と使用しないようにする
●過眠症治療薬であるモダフィニールやメチルフェニデートなどの精神刺激薬は、うつ病に伴う過眠に有効という科学的根拠はなく、推奨されない
●睡眠薬をはじめとした、同一種類の薬剤を多剤併用すべきではない


profile つぼい・たかし(杏林大学医学部精神神経科学教室講師)専門は精神科薬物療法で、ガイドラインの普及・作成にも関わっています。子育てと旅行に関心があり、子どもと一緒にウミガメと泳いでみたいです。

うつ病の治療ガイドラインは、日本うつ病学会のウェブサイトで全文が公開されています。くわしくは「うつ病治療ガイドライン」で検索してください。

本連載は平成28年度日本医療研究開発機構障害者対策総合研究開発事業(代表者:渡邊衡一郎(杏林大学))の支援により行われています。