週刊現代編集部への抗議を担当して-1-


この数ヶ月間の抗精神病薬ゼプリオン問題や講談社が出版する「週刊現代」7月9日号の特集「医者に言われても断ったほうがいい『薬と手術』」特集のなかにおいて、「衝撃の事実が明らかに 統合失調症の薬で85人死んだ」および「『うつ病』と『統合失調症』は薬を飲めば飲むほど悪くなります 認知症も考え直したほうがいい」という記事に対する抗議活動、及び所謂相模原事件に関するコンボの意見書作成など、還暦をすぎた身であっても、様々に考え込むような事柄が多く、色々な学習ができたと共に様々な課題が出てきたように思います。

一方で、コンボにおける精神保健医療福祉の「見える化」の担当者としては、遅々として進まない改善作業へのお叱りを頂き、また、担当者としても慚愧の念を感じつつ、リカバリー全国フォーラムにおける精神保健福祉医療の「見える化」分科会のコーディネーターを勤めさせて頂きましたが、建設的なご意見が数多く拝聴でき、且つ参加者の方々の真剣な期待を感じ、何とか改善作業を進める元気を頂きました。

このような数ヶ月間の経験をコンボのインターネットサイトに掲載すべきかどうか迷いましたが、これらの経験は個人的な体験として止めておくよりも、厳しくなりつつある社会環境に対するコンボのリカバリー活動に昇華させ、コンボのインターネットサイトをご覧になって頂いている方々がご自身で考えるための情報提示の一つ、コンボの活動の「見える化」の一環として公表すべきだと考え直しました。

考え直した最も大きな理由は、所謂相模原事件でのコンボのインターネットサイトへのアクセス数は事件発生の日から2日間で10万アクセスを超え、コンボのフェイスブックへのアクセス数もページに掲載した「緊急要望書」もリーチが8万を超え厳しくなりつつある時代状況の中でコンボの活動を見て下さっている方々がいらっしゃることを実感したからです。

従って、講談社が出版する「週刊現代」への抗議活動についてもその内容を明らかにすると共に、何故、「週刊現代」に対して「はなはだ常軌を逸したもの」といわれつつ抗議活動を継続しているのかの理由をお知らせした方が「見える化」にふさわしいと思いますので以下に記していきます。多分、非常に長い文章になると思いますので、何回かに分けて掲載します。

<経緯・行動・理由>

6月21日厚生労働省に抗精神病薬ゼプリオンの利用者のうち、85人が死亡している問題(独立行政法人医薬品医療機器総合機構へ報告された自発報告に基づくものなので因果関係は不明)について、要望書を厚生労働省に提出しました。

これに関する報道は新聞・雑誌・TVなど様々なメディアの色々な企業の方々にして頂きました。

様々なメディアからの問い合わせ対応で混乱しているさなかに、「週刊現代」の方々から電話連絡があり、状況を把握しない中で返答をしたということになります。

当初は、ゼプリオンに関する問題の報道と考えていたのですが、発売される週に、コンボの会員の方から、「新聞広告の見出しによると、こんなことを書かれているようなのだが事実なのか」との問い合わせがあり、ようやくその時点でどういう特集の中でどのように扱われているのか把握しました。

まず、特集のタイトルそのものがコンボの活動理念やこれまでの主張と大きく齟齬をきたすもので、本来であればこのような特集にコンボとして協力する訳にはいかないような内容であると考えました。

齟齬をきたす理由は、リカバリーは一に当事者のストレングス(強み)に基づいてその人の目標を達成することを支え、そのことによって同時に、自分自身(支援者)のリカバリーを進めることであると思っています。
これを実行するためには紋切り型のある特定の価値観に基づく、または価値観を隠した決めつけ情報ではなくて、当事者の方々が自分自身で判断できるように、提供する情報の危険性や便益性を簡潔に示し、どの程度の信頼性があるのかが明らかにすることが情報を提供する側に取って必要になると思います。或いは、別の書き方をすると、情報を提供する側の価値観を隠したうえで、紋切り型の情報を提供することは、ある意図を持って情報を受け取る人々を操作することに繋がる可能性が出てきますので、避けるべきことであると考えます。。

従って、講談社が出版する「週刊現代」7月9日号の特集「医者に言われても断ったほうがいい『薬と手術』」特集のなかにおいて、「衝撃の事実が明らかに 統合失調症の薬で85人死んだ」および「『うつ病』と『統合失調症』は薬を飲めば飲むほど悪くなります 認知症も考え直したほうがいい」というタイトルそのものが上記の視点からは問題になります。

その理由は、「薬を飲めば飲むほど悪くなります。」の証拠はどこにあるのか、どの程度の信頼性を持った情報なのか、その証拠はどのような方法でつくられたのか、誰によってつくられたのか等々検証しなければならないことが多くあります。これらの検証を省いて「週刊現代」編集部の価値観で決めつけることですら問題だと思うのですが、ましてコンボの職員の名前を使って自分達の価値観を覆い隠し、責任を逃れようとするかに見える文章は言語道断であると同時に、「週刊現代」は誤りを犯さず常に「正しい」報道をするという自己欺瞞に陥りやすく、自己の考え方を修正することが困難になると思います。また、この記事タイトルを考えた方は、もしこの記事を信じて抗うつ薬や抗精神病薬を中断し、その方が症状の悪化や、最悪の場合自殺された場合どのような責任を取れるのか良く考えて頂きたいと思います。

上記しましたように、コンボの側としては、コンボ事務局の混乱の中で取材意図を確認せずに電話に答えたことが問題だったのですが、この辺の詳細につきましてはコンボサイト掲載の「週刊現代の記事の内容及び取材の経緯に対する抗議文書」及び「抗議文書の関連資料(掲載文章と問題点を指摘する対照表/修正版)」をご一読頂ければ幸いです。

コンボとしての最大の問題は6月28日に掲載致しました会員・当事者・家族の皆様に対する謝罪文書(週刊現代7月9日号の記事について)で示しましたように、皆様に不安感を覚えられるような記事タイトルや内容にコンボの理事・職員の名前が使われたことです。この点につきましてはお詫びするだけでなく今後の活動の中でコンボが考えていることをお示ししていきたいと考えています。また、この間、各新聞・週刊誌の取材につきましては慎重に対応をしてきたつもりですが、今後とも事実と違う記事が掲載されましたら、会員の方からのご指摘、或いは自分たち自身での検証に基づいて今回と同様に持続的な抗議活動を行って行きたいと考えております。

さて、具体的な交渉に入るわけですが、これらに関する詳細につきましては、「週刊現代への抗議とその経緯(2016年9月28日)」を読んで頂ければ幸いです。「週刊現代」編集部の対応で興味深いのは、7月11日以前は基本的に記事による謝罪以外は書面による謝罪や「週刊現代」本誌上での1ページのコンボ意見の掲載について合意しておりましたが、それ以降は態度がかたくなになることです。この間の変化の原因としては週刊文春編集部が、コンボの週刊現代編集部への抗議に対する取材を「週刊現代」編集部に対して行っていたことぐらいで、対応変化の理由はこの点である可能性が高いように思われます。(詳細は「8月3日の週刊現代編集部からの返信」をお読み下さい。)

この点につきまして、理解できなくもないのですが、競合誌との関係からか前述しましたように何か「週刊現代」は「正しい」或いは「正しくなければならない」というような〈規範〉が生じ、本来訂正しようとしていた記事内容を固持しなければならなくなって行かれたのではないかと推測致します。これ以降は事実確認を行う事なく、週刊現代は正しいことをしているのにコンボが「はなはだ常軌を逸した」謝罪要求を行っているという構図を維持されることに苦慮されているように拝察致しました。

但し、この思考パターンに組織が入りますと、仲間であると意識できる人々以外に対しては排外的になる可能性が高く、所謂「新自由主義」で生産力に寄与しない人間を排除する心理構造と大きく変わりはなくなるように思います。

また、本来、現代社会の中で利益を上げつつ、正しい事実を報道するという極めてバランスを取ることが難しい環境の中で、微妙にバランスを取りつつ事実報道を行うということではなく、単純に利益の上がるものを事実とは無関係に「報道」するという事態に陥りかねません。

「週刊現代」ご自身のためにも方向を修正されることを祈念して今回の所感は終えたいと思います。この続きはまた、来週にでも掲載致します。

2016年10月5日 島田豊彰