特集2「承認欲求」超入門(226号)


特集2
「承認欲求」超入門(226号)

○「こころの元気+2025年12月号より
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筆者片山皓絵
長谷川メンタルヘルス研究所
公認心理師・臨床心理士


承認欲求

承認欲求は、「認められたい」という自然な欲求であり、じょうずにつきあえばよい影響をもたらすものです。
一方で、承認欲求がわかりやすく表れる例としてSNSがあげられ、ネガティブな意味で使われることも多いように思います。

たとえば「がんばった自分を認めてほしい」と投稿したのに、思うような反応が得られないと、さらにがんばりを強調した投稿をするかもしれません。
そのような投稿は見る側にも影響を与え、「こんなにがんばっている人がいるのに自分はダメだ」と感じてつらくなってしまう場合もあります。

心理学からみた承認欲求

では、承認欲求という言葉はどのようにして使われるようになったのでしょうか。

欲求階層説と2つの側面

アブラハム・マズローという心理学者が、1943年に自身の論文で、欲求階層説(下図)を発表しました。

人間の行動のモチベーションとなる欲求があり、下層から順に「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階があると考えました。

マズローは承認欲求を2つの側面に分けてとらえます。
「他者からほめられたい」
「注目を浴びたい」
という〝外的側面”と、
「何かを達成したい」
「自信を持ちたい」
という〝内的側面”です。

ただし、“外的側面”である他者からの評価に頼りすぎるとSNSの例のように苦しくなってしまう場合があります。

早期不適応スキーマ

“外的側面”にとらわれてしまう例として、ジェフリー・ヤングという心理学者が発見した早期不適応スキーマがあげられます。

スキーマとは経験から作り上げられた、その人なりのものの見方(感情、考え、行動など)のクセのことです。
そして早期不適応スキーマは、幼少期や青年期の体験をとおして形成される持続的で自己破壊的なものの見方を指します。

承認欲求スキーマ

早期不適応スキーマの1つに「承認欲求スキーマ」があります。
このスキーマが強い人は、「他者に認められなければ自分には価値がない」と考える傾向があります。

ふだんは落ち着いていても、他者からの評価を受けるような場面に出くわすと「承認欲求スキーマ」が活性化され、苦しくなることがあります。

 

苦しくなる場合の対処法

このように「他者からの評価=“外的側面”」を求めて苦しくなる場合、どうすればよいのでしょうか。

弁証法的行動療法(DBT)をヒントに

DBTは、マーシャ・リネハンという心理学者が考案した、感情調節に課題があり、その苦しさから衝動的な行動をとりやすい方のための心理療法です。
DBTでは承認が大事にされ、承認とは「その人の反応(感情、考え、行動など)は妥当であり、理解できると認めること」と定義されています。
たとえば、感情調節がうまくいかずに対人関係の問題が生じ、困っている人がカウンセリングを受けたとします。
その際支援者が問題解決のための変化を提案してばかりでは当事者は苦しくなります。

変化のための行動を試してもうまくいかないと、当事者は「自分はだめだ」「支援者は認めてくれない」と思い、より苦しくなるでしょう。

そこで支援者は、当事者がうまくいかなかったと感じている行動の中から、「がんばっている部分」「できている部分」を見つけて承認することで、当事者が変化への努力を続けたり、自分を認めたりすることをサポートできます。

評価する相手

このように“外的側面”には、「誰かに認められることでがんばれる」というよい点もあります。
その際「自分を正確に理解している相手からの正当な評価であるかどうか」が重要です。

たとえば、SNSのように不特定多数と関わる場では、批判的な評価をされても、それが必ずしも正確とはいえないかもしれません。

それに対し、信頼できる支援者や家族、友人(SNS上の友人も含む)などに承認してもらうことで、自分で自分を承認できるようになることがあります。
すなわち、“内的側面”に目が向いていきます。

承認欲求とつきあう力

“内的側面”を育てるためには、自分でじっくり考えても、誰かに手伝ってもらってもいいので、自分なりの価値を築くことが最も大切です。
その価値にしたがって行動できたときに、「うまくいかないこともあったけれど、自分はよくやった」と自己承認することが、承認欲求とうまくつきあうための力になるのではないでしょうか。


○「こころの元気+2025年12月号より
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