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第126回
バリアバリュー(223号)
○「こころの元気+」2025年9月号より
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筆者:福場将太
医療法人 風のすずらん会
美唄すずらんクリニック 副院長
▼バリアバリューとは?
バリアバリューという言葉、直訳すれば「障害の価値」という意味ですが、「障害が価値になる」なんていわれても、にわかには信じられないかもしれません。
むしろ障害当事者は、
「自分は人より劣っている無価値な存在」と感じてしまいがちで、僕自身も失明したばかりの頃は存在価値を見出せず、精神科医を辞めることを考えていました。
▼得るもの、高まる能力
ただ忘れてならないのは、失うことで得るものもある、高まる能力もあるということです。
たとえば病院が停電したとき、多くの職員はあわてふためきましたが、僕はいつもどおりに廊下を歩いて、いつもどおりに仕事ができました。
たとえばコロナ情勢、「マスクで患者さんの表情が見えないせいで診療がしにくい」と先輩医師は言っていましたが、僕は苦になりませんでした。
目が不自由になったことで、知らず知らずのうちに、視覚以外の感覚で建物の構造や相手の気持ちを感じとる能力が備わっていたのです。
まさしくバリアバリューでした。
▼他の障害でも
これはあらゆる障害でいえることです。
精神科の患者さんの中には、その繊細さのせいで苦しんでいる人もいますが、その繊細さのおかげで、みんなが見過ごした、誰かの心の痛みに気づけたりします。
耳の不自由な人は、通常は声が届かない距離にいる相手でも、その表情と口の動きを見て、言葉をキャッチできたりします。
家庭教師のサリバン先生、誰もがお手上げだった三重苦のヘレン・ケラーを回復させることができたのは、サリバン先生自身が視覚障害と精神障害の当事者であり、そのバリアバリューが大きく作用したからではないでしょうか。
▼視覚障害のバリアバリュー
僕は目が見えない医者です。
できないことだらけです。
でも、そのおかげでスタッフとのコミュニケーションが増えました。
そして患者さんにも手を貸してもらう中で、一方的な支援よりも、持ちつ持たれつのお互い様の中で回復する心があることを知りました。
そんな医療を見つけることができたのも、視覚障害のバリアバリューだと信じています。