統合失調症・妄想性障害・緊張病


統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
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筆者:渡邉博幸  ※渡邉博幸先生のDVD「あなたの生活を変えるちょうどよい薬の量のはなし」
(執筆時:千葉大学社会精神保健教育研究センター)


米国精神医学会の操作的診断基準DSM−5では、統合失調症やその類縁疾患を、「統合失調症スペクトラム」として、一連の連続性をもった疾患群と位置づけられています。
症状の程度や持続期間のちがいにより、軽度な病状から順に、統合失調型(パーソナリティ)障害、妄想性障害、短期精神病性障害、統合失調症様障害、統合失調症とつづきます。ここでは、そのなかで代表的疾患といえる統合失調症を取り上げ、鑑別疾患として、妄想性障害、緊張病について簡単に解説します。

1.統合失調症 Schizophrenia

①概念:統合失調症は、直接の原因がないのに、脳のさまざまな働き(たとえば、考えや気持ちや行動)がまとまりにくくなる病気です。
特徴的な症状として、陽性症状(悪口が聞こえる、いじめられていると思い込むなど)、陰性症状(やる気がでない、まわりに関心がなくなる、疲れやすいなど)、認知機能障害(融通がきかない、段取りよく行動できない、忘れっぽいなど)があります。経過のなかで症状も変化していき、長い治療やリハビリが必要ですが、新しい薬や心理社会的支援、制度利用によって、回復・軽症化してきていると言われています。
近年では、いくつかの異なった病気の集まりの可能性があると考えられています。何らかの生物学的な「なりやすさ」と環境ストレス(特に対人関係での緊張状態)が重なって、発症に関係すると考えられています。

②疫学:発症年齢は、思春期から20歳代半ばにピークがありますが、30代での発症も稀ではありません。男性の方が女性より5歳ほどの発症のピークが若いです。生涯有病率は、国や地域による差は少なく、ほぼ1%です。わが国の平成23年の患者調査によれば、生涯有病率は約0.8%(120人に1人)で、推定患者総数は約70万人、男女差はないとされます。入院患者数は、約20万人と精神科入院患者のなかで最多です。

③症状:知覚・思考・感情・意欲・認知機能など、多くの精神機能領域の症状があります。
1.陽性症状といって、幻聴や体感幻覚などの幻覚や被害妄想に代表される妄想体験など、精神の不調が外にはっきり現れるものや、
2.陰性症状といって、感情がいきいきとわかなくなったり、やる気がおきなくなったりする自発性低下、部屋に閉じこもって、他人との交流を避けるようになる社会的ひきこもりなど、気力や活力が減退した状態となったり、
3.認知機能障害といって、記憶力や、注意集中力が損なわれ、物事を段取りよく処理する作業能力が損なわれることがあります(図1参照)。
統合失調症図1

④経過・予後:統合失調症者のうち、20%は非常に良好な経過をたどり、 40~50%も症状を残しながらも、日常生活を営むことができるような回復を歩みます。残り 20~30%は、急性の精神病性エピソードをくりかえしたり、陰性症状、生活障害が目立って、さまざまな社会支援を必要とすることが多いです。

⑤診断と鑑別診断:妄想(訂正できない思い込み)や幻覚(ほとんどは、実際にない声が聞こえる幻聴が特徴的です)、脱線した話し方、行動がまとまらない、などの陽性症状と、感情がわかない、意欲がなくなるなどの陰性症状が1か月以上つづき、仕事や対人関係、自己管理に著しい支障をきたしている時に診断します。
鑑別診断としては、妄想を呈する他の精神疾患として、妄想性障害や緊張病、また気分の症状が生じるうつ病や双極性障害、さらには、乱用薬物や医薬品、その他の身体疾患による精神障害を否定する必要があります。特に、統合失調症の初期は、非特異的な不安緊張や疲労感のみが訴えられることもあり、うつ病と診断されることもあります。
また、中年期以降で突如生じた、まとまりのない言動や行動は、脳内病変や全身性疾患などの身体疾患をまず疑って、慎重に身体検査を行う必要があります。

⑥治療:急性期、回復期、維持期ごとに、薬物療法、心理社会的治療を組み合わせて治療をします(表1参照)。
それぞれの時期に応じて治療目標が変化します。とくに薬による治療では、急性期、回復期、維持期で気を配りたい目標が異なることに注意しましょう。
統合失調症表1

1)急性期:急性期は統合失調症特有の精神症状である陽性症状が顕在化し、医療の関与が始まる時期です。
急性期の治療では、特に陽性症状を軽減し、不安緊張を緩和し、安全確保・睡眠や栄養などの基本的な生存機能の維持に努めます。そのための環境調整、薬物療法の導入が重要となる。精神運動興奮が著しい場合や幻覚妄想状態がはげしいときは、やむをえず入院治療が選択されます。
しかし、最近は薬物療法の工夫や早期受診により、外来で治療が完結することも増えてきました。その場合は、家族や本人が疲弊しないように、訪問支援や地域福祉資源との連絡・連携などを速やかに行う必要があるでしょう。

2)回復期:急性期に続く回復期は、陽性症状が軽減し、現実検討がもどってくると同時に心身共に疲れやすい時期です。また自分の身に起きたことが、実は精神症状であったと気づき、治療の必要性を了解してくる反面、精神疾患になってしまったことへのショックや、これからの不安などが現れます。

回復期の治療では、そのような病いに対する複雑な気持ちを理解し支え、的確な情報をもとに心理教育を導入し、病気の知識や、対応力を高めていきます。家族の理解や対応力を高める支援も引き続き必要となります。薬物療法としては、薬による副作用の出現をモニターし、身体的な変調に対応することが求められます。

3)維持期:維持期における精神症状の特徴は、認知機能障害や陰性症状からくる、生活機能の障害です。これは、人それぞれ程度が異なりますので、本人の希望や機能に応じてリハビリテーションや社会福祉サービスを提供します。
薬物療法としては、引き続き副作用をモニタリングしつつ、できるだけシンプルで安全性の高い服薬量や服用内容に調整し、安心して継続できる処方をめざします。訪問看護などを利用し服薬継続を支援したり、当事者との相談のうえ、希望により抗精神病薬持続性注射製剤(デポ薬)を導入することもあります。

わが国では、精神症状も活発で生活機能障害もあわせもった統合失調症の方は、精神科病院に長期入院を余儀なくされています。この方たちの退院・地域生活を支援するためには、病院中心、医療中心の支援のみでは実現がむずかしいです。地域でいきいきと暮らすための環境や住居の確保、居宅介護(ホームヘルプサービス)、訪問看護など、アウトリーチ支援を中心とした医療保健福祉協働の充実が望まれているのです。

*薬物療法の変化
 統合失調症の陽性症状を緩和する効果を持つ薬は、抗精神病薬です。
抗精神病薬による治療は、2000年前後で大きな変化を遂げました。クロルプロマジンやハロペリドールに代表される従来の薬は、錐体外路系副作用(たとえば、手が震える、体が動きにくい、のみこみにくい、話しにくいなど)という運動機能への影響が出やすかったのですが、リスペリドンやオランザピン、アリピプラゾール,クエチアピン、ペロスピロン、ブロナンセリン、パリペリドン、クロザピンなどの新しい抗精神病薬は、薬剤自体に錐体外路系副作用を出しにくい工夫がなされており、現在、治療薬の主役となっています。
しかし、これらの新しい薬では、今までクローズアップされなかった糖代謝異常(血糖値が上昇する)、脂質代謝異常(コレステロール、中性脂肪の血中濃度が上昇する)、肥満などがおきやすく、これらの副作用がメタボリックシンドロームにつながり、心血管系疾患の引き金を引くことが知られてきました。
新しい薬だからすべて副作用が少ないということではなく、出やすい副作用に違いがあるにすぎないという考え方も可能かもしれません。
服用する人の既往歴や家族歴、どういう人生目標を持っているのかなどを丹念に確認し、ライフスタイルや身体背景にあった薬剤を選択することが大切です。

 

2.妄想性障害 Delusional Disorder

妄想性障害は、1つまたは複数の妄想が持続するもので、一般的には成人期に発症し、社会的機能は著しくは損なわれません。幻覚はないか、あったとしても、妄想のテーマとの関連性がうかがわれるものです。妄想の内容も、統合失調症のように、「宇宙人にコントロールされている」、「世界の秘密を知ったので命をねらわれている」などの荒唐無稽な内容でなく、現実的にありうるようなテーマのことが多く、他者から確認しないと事実かどうか迷うこともあります。また、当該の妄想以外は他の思考障害を認めないこともあるため、診断がむずかしいこともあります。妄想性障害には、下記のような亜型が知られています。

①被愛型:誰かが自分に恋愛感情を持っていると思い込んでしまう。

②誇大型:自分が飛び抜けた才能を持ち、重要な発見をしたなどと思い込む。

③嫉妬型:配偶者や恋人が不貞を働いていると思い込む。

④被害型:自分を陥れるような陰謀により、邪魔され、だまされていると思う。

⑤身体型:自分がひどいにおいを発している、寄生虫が体中に巣くっているなどの身体の機能や感覚に関係した思い込み。

治療では、患者本人の自覚的病悩や他覚的症状に応じて、統合失調症治療に準じた薬物療法や精神療法を行います。しかし、妄想性障害の方は、他者に対しての強い疑惑や不信感を持ち続けていることもあり、いたずらに、妄想を訂正するための説得や薬物療法では、患者にとって医療者が新たな脅威となる可能性があります。節度あるていねいな対応を、ふだんから心がける必要があります。

 

3.緊張病

緊張病は、興奮・昏迷を基本として、①カタレプシー(同じ姿勢を固持する)、②反響言語(相手の言葉をオウム返しする),反響動作(相手の動作を反復する)、常同症(同じ動作をつづける)、拒絶症(態度や行動で拒否を示す)、無言など、特徴的な症状を示す症候群です。
統合失調症のみならず、うつ病、双極性障害、脳炎などによる器質性精神病などが原因のこともあるため、慎重な診察が必要となります。生命維持のための基本的な生活活動(食事摂取や飲水、休息、清潔動作など)ができなくなるため、脱水や低栄養、身辺の不潔、褥創、誤嚥、失禁、廃用性の筋萎縮や関節拘縮などが合併しやすく、身体的なアセスメントやケアが必要となり、多くの場合入院治療が必要となります。