経験談


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      精神に変調が起こったとしても、医療機関にすぐにかかる前にいろいろなことをチェックしなければなりません。精神に起きた変調は、もしかすると内科的な病気が原因かもしれません。もしそうなら、内科的な病気をまず検査してもらい、内科的な病気の治療をすることが大切でしょう。では、内科に行ったら、何をどう伝えればいいのでしょうか。そしてどうすれば内科の病気なのか、精神科の病気なのかわかるのでしょうか。

      • 内科にかかるときには

普段と違う自分に起こっている事柄を整理して伝える。(気分の変化についても含める)
血液検査、尿検査、血圧など内科的な検査を受ける
内科的な検査をしてもらって、異常がない場合、どの科に行けばいいかを相談する。
いろいろな身体症状が出ているので、たいがい精神科以外を紹介される

まずは、紹介先の科で、身体症状を相談する。
内科の医師が必要と感じた場合、できれば知り合いの精神科を紹介してもらい、紹介状を書いてもらう

もしも精神科にかかる必要があると言われて、紹介先を見つけてくれない場合、コンボのサイトを参考にすることができます。
「こころの元気+」の特集を見てみましょう


めまい、頭痛、体重増加、便秘などなど…
健康管理のキーワード—それは、バランスです
精神科医・内科医/益子雅笛


      • 知っておいていただきたい大切なこと

今回、読者の皆さんから身体の症状について、たくさんのご質問をいただきました。ありがとうございました。日頃、精神科外来での診療において、精神症状だけではなく身体症状の訴えやご相談を受けますが、患者さんの多くがさまざまな身体の不調を感じておられ、自分なりに健康管理を試みているがなかなかコントロールがつかないと困っておられることを改めて感じました。
それぞれに対して回答したいのですが、スペースの都合などにより、今回はご相談の多かった症状についてお話ししたいと思います。
質問への回答の前に、皆さんにぜひ知っておいていただきたいことが二つあります。

【その1】身体の中で起こっていることを理解する

人間の体には、「常に体の中の状態を正常に保とうとする働き(恒常性)」があり、このために「よい状態にもどろうとする(自然治癒)」、「環境や状況に合わせる(適応)」、「失ったものを補おうとする(代償)」などの能力があります。体は内外の変化や状況に応じて、自分が最もよい状態でいられるように「無意識に」体の各器官を調整し、体全体としてバランスを保とうと調節をしており、これを「自律」といいます。
体温、血圧や血液循環、呼吸、消化、代謝、排泄、感覚、運動、免疫(身体を守ること)、睡眠覚醒リズムなど、人間が生きていくことに必要な機能を維持するのに重要な役割を担っているのが「自律神経」や「ホルモン」であり、その中枢が「脳」の中にあります。そのため、脳に負荷がかかっているときや疲労しているとき、また脳の病気である精神疾患がある場合、一方、脳が元気でも体の各器官の働きが低下しているときは、「自律障害」が起こりやすいのです。
また、明らかな原因の有無に限らず身体症状が慢性的に持続している場合、「体があらゆる能力をもってしても全体としてのバランスがとれなくなっている」、あるいは「身体症状を生じることでバランスをとっている」ことも少なくありません。

【その2】治療とケア

身体・精神にかかわらず、慢性疾患がある場合に特に重要となるのが、治療(cure)とケア(care)の関係についての考え方です。
病気や症状、身体の不調に対し、医療従事者と協同して処置を行うことを「治療」とすれば、病気の有無にかかわらず、
「体の不調のない状態(健康)」を維持するためにしていること、たとえば食事、運動、排泄、清潔などすべてに対して心がけを行うことが「ケア」です。治療はケアの一部であり、ケアの実践は治療にもなります。どのような身体症状であっても、また特に慢性の機能的異常による症状に対しては、生活習慣の改善・工夫などを患者さん自身が継続することが重要となってきます。
体は常に、今、自分がどのような状態かを認識し、それに対し体全体がバランスを保てるように反応しています。その結果、身体の不調となって現れてきているとすれば、「体がバランスをとりやすい環境にする」、「体が正しいバランスをとれるように助ける」ように考えて対処することが、不調の解消につながるはずです。


      • 皆さんの質問にお答えします

《質問1》原因不明のめまいに悩まされています。診察や検査を受けても「異常はない」と言われ、薬を処方されましたが症状は続いています。担当医からは「薬をのんで効かないなら治療法はない」と言われてしまい、具体的にどのようにしたらいいのかわかりません。

 

症状を自覚されているご本人としては、「異常がないのに症状が続くのはなぜなのか」、「症状があってつらいのにどうしたらいいの」と思いますよね。原因がわからないまま症状が続いていれば、不安になるのは当然のことです。このような状況は、めまいやふらつきの他、のどの違和感、胸部や上腹部の不快感、吐き気、しびれ、微熱、全身倦怠感などといった症状でもよくみられます。

検査の多くは、身体各器官の器質的な異常を見つけるものですから、検査で異常がないとすれば、先ほどお話しした「身体機能」の異常であることが考えられるわけです。とすると、身体機能の回復・向上が目標になるので、原因は何だろうかと考えて不安になり、さらに症状が悪化してしまうよりも、体が楽になるためにできることは何かを考え、実践することが大事です。
原因不明のめまいでは、血圧調節、平衡感覚機能の低下がみられます。体、特に頭を動かすと、脳は自分がどのような姿勢になったのか感知してそれに合わせて血圧を調節します。平衡感覚機能が低下していると頭の位置がわかるまでに時間がかかり(良性頭位変換性めまい)、血圧を上下する時間もかかります。その結果、脳の血流が一時的に低下するとふらっときます(起立性低血圧)。
このような状態に対する「治療」として、めまい止めや血圧を上げる薬を使用しますが、身体機能を上げるような「ケア」も重要です。症状があるときは、ゆっくりと起き上がるなど工夫することが必要になりますが、症状があるからといって横になっている時間が多くなると、起き上がることが少ない状態に体が順応してしまいます。そして、さらにめまいが起こりやすくなってしまいます。ですから、こまめに動いて体が反応することを繰り返しトレーニングすることが必要です。運動や入浴によっても血圧は上がりますので、できるところから徐々に負荷をかけていくとよいと思います。


《質問2》頭痛で困っています。肩こりがひどくなると頭痛もひどくなります。割れるような痛みで何もできなくなり、時には吐き気も出ます。人ごみに行くと起こりやすいので、外出もできません。最近は、鎮痛薬が効かなくなってきて、のむ頻度が増えてきています。このまま薬をのんでいてよいのか、それとも他に対処法はあるのでしょうか。

 

頭痛においてまず大事なことは、頭痛の原因となる身体の異常がないかどうかを確認することです。持続する場合、一度は専門医を受診することをおすすめします。
検査で明らかな異常が認められない場合、ほとんどが「片頭痛」、「緊張型頭痛」あるいは、これらの両方が重なった「混合性頭痛」ですが、頭痛の起こり方が違うので、症状の特徴や痛みがあるときの「ケア」は異なります。「片頭痛」は血管性の痛みで、発汗や吐き気などの症状を伴うこともあります。血管を圧迫したり、おでこやこめかみを冷やして血管を収縮させたりすることでよくなります。
一方、「緊張型頭痛」は頭から首、肩にかけての筋肉が収縮して硬くなる、すなわち「首や肩のコリ」が原因で、締めつけられるように重くなるといった痛みが典型的です。首から肩のこったところをマッサージでほぐす、肩甲骨を大きく動かすように肩をまわす、蒸しタオルや入浴などで温めて血行をよくする、などでコリをやわらげると楽になります。
ただし、いずれの頭痛も、身体要因(睡眠不足、疲労など)、心理要因(性格傾向、ストレスなど)、環境要因(天気、人ごみなど)をきっかけに身体的にも精神的にも緊張が持続することで生じてくることは同じです。このため、緊張を緩和するような「ケア」として、充分な睡眠をとり疲労をためないようにする、自分なりのストレス発散法やリラクゼーション法を見つけるなど生活習慣の工夫を行うことが頭痛の予防になります。
「治療」としては、対症療法が主体となるので、痛みがあるときは鎮痛薬を服用することになりますが、鎮痛薬も服用量が多くなると「鎮痛薬による頭痛」が起こりやすくなります。最近は片頭痛の治療薬もあり、「ケア」や鎮痛薬でコントロールがつかない場合、専門医(脳神経外科、頭痛外来など)に相談しましょう。


《質問3》「生理が不順です」、「生理の前になると眠気、便秘、いらいらなどの症状が出ます」、「デリケートゾーンのかゆみがあります」、「病気になってから性欲がなく不安です」。担当医に相談してよいものか、悩んでいます。

 

泌尿器・婦人科の症状や性機能障害など、話しにくいものですね。医師にとっても、聞きづらいというのが正直なところかもしれません。しかし、デリケートな部分ほど大事なところでもあり、また特に性機能障害は薬剤の副作用としてみられることもあるので、きちんと伝えましょう。口頭で伝えるのがむずかしいときは、メモに書いて担当医にお渡しするとよいと思います。


《質問4》病気で治療を開始してから体重が増えました。担当医と相談して体重増加の副作用がある薬は中止し、食事に気をつけるなどいろいろなダイエットを試みましたが、症状の起伏もあるために長続きせず、その後なかなか体重が減りません。何とか体重を減らしたいのですが…。

 

肥満を含め生活習慣病といわれる病気はすべてその名のとおり、生活習慣を反映します。すなわち、食事、排泄、生活リズム、運動、環境、ストレス、といった生活におけるすべての結果がその体重である、ということです。病気やその症状、治療(休養や薬物療法)も誘因の一つではありますが、それがすべてではありません。
 なかなか減量できない場合、体が「やせてよいと認識していない」ことが考えられます。体は、生きていくために必要な栄養が入ってこないと「貯める」ように身体機能が働きます。代謝機能の低下、排泄機能の低下、末梢循環機能の低下(冷え)をきたし、飲食を制限しても「エネルギーを使いきれず老廃物も出せない」ので、さらに「貯まる」ことになります。
そこで、体に「貯めなくてよい」と認識させるような生活をすればよいのです。具体的には体重そのものではなく、生活習慣を変えることを意識(体重はあくまでも結果として考える)しながら、以下のようなことを心がけるとよいでしょう。

【飲食】必要最低限の食事量やカロリーを摂取する、糖質を制限してたんぱく質を多くとる、水分のとりすぎは体を冷やしむくみの原因にもなるので注意する、必要な栄養素を摂取するためにサプリメントを活用する、など

【便秘の解消】(質問5の回答参照)

【半身浴や運動】体を温め、汗を出し、代謝を上げるのに効果的生活習慣の変化によって「やせる体」になると、少しずつではありますが体重は落ちてきます。大事なことは継続することなので、たった一つでも、できることを毎日続けることがポイントです。「やるもやらないも自分次第」であり、成功させる秘訣は「できない理由をつけないこと」です。


《質問5》ひどい便秘です。一週間に一回ぐらいしか排便がなく、下痢もあります。薬の副作用ではないかと担当医に相談しましたが、薬は減らせないからと下剤を処方され、野菜を多く食べるように言われるのみです。下剤をのむとトイレがたいへんだし、食事には気をつけていますが、思うように効果がありません。 

 

慢性(常習性)の便秘は、生活習慣のなかに多くの誘因があること(食事、睡眠、排便、運動、生活リズム、環境、過度のストレス、など)、さまざまな身体疾患によっても起こること、原因は一つとは限らないことなどからコントロールが困難なことも多くみられます。特に精神疾患を有する場合、便秘がみられることが多く、その原因としては、症状やその出現による生活習慣、治療薬の副作用などあらゆる誘因が重なっていることが考えられます。
専門的な治療を必要としない場合、まず生活習慣の是正による排便習慣の改善、すなわち「治療としてのケア」が重要となります。具体的には、・生活様式と排便習慣については…夜間に質のよい睡眠がとれるようにする、朝決まった時間に起きて朝食をとる、トイレにゆったりとした気持ちでいく。

      • 食事内容については … 食物繊維を多くとる、冷たいものや水分量に注意し、温かいものや体を温めてくれる効果がある食材(ショウガやにんにくなど)をとる、サプリメントを活用する。
      • 冷えを解消し、腹部の血流をよくすることについては … 腹部・腰部を温める、お腹をマッサージする、半身浴や足浴をする。
      • リラクゼーションについては … 身体的にも精神的にもリラックスできるような時間、場所、方法などをみつける。

このような、生活習慣の改善など自分なりのケアが充分に行えない場合、あるいは行っても排便コントロールがつかない場合は、「治療」として薬物療法を併用することになります。使用する薬剤としては下剤の他、身体・精神緊張の緩和を図るために抗不安薬を、また体全体のバランスを整える効果がある漢方薬を処方することもあります。


最後に

最後になりますが、ケアによる身体機能の改善には時間がかかります。でも、体はとても素直です。適切な方法で続けていれば、徐々にではあるものの必ず変わってきます。自分の体を信じて、しばらく続けてみてはいかがでしょうか。ちなみに、私は「半身浴で汗をたっぷりとかくこと」、「使い捨てカイロでお腹を温めること」、「きのこやにんにくを食べること」、「疲れたらよく寝ること」で冷えや便秘の改善に努め、三年ぐらいたってようやく効果が出てきたところです。


こころの元気+33号特集より