ストレスを科学する! 5つのギモン(医師)


こころの元気+ 2013年2月特集より


特集7
ドクトルイチキがストレスを科学する!

なぜ歌うとスカッとするのか? なぜストレス発散に睡眠が役立つのか? 食べることは本当にストレス解消に役立つのか? など、5つのギモンにドクトルイチキがお答えします!

市来真彦(いちき・まさひこ)
東京医科大学精神医学教室茨城医療センター メンタルヘルス科自分の生き方「音楽は人生そのもの、笑いは人生のスパイス」座右の銘「あきらめねば活路は開ける!」


今日は笑い療法を行うミュージシャンのドクトル・イチキがストレス解消に対する疑問にお答えいたしますが、まずそれぞれの疑問にお答えする前に、お話ししておくことがあります。

この本の読者は、ご本人もしくはご家族が精神疾患の治療を受けていらっしゃる方だと思います。
そうであれば、まず理解しなければならないことは「ご本人が感じるストレスは、明らかに病気が原因の場合と病気が原因ではない場合の2つの場合がある」ということです。
ただしどこからが病気かをハッキリと区別することは、担当医であっても簡単とは言い難いので、ご本人がストレスと感じているものは「明らかに病気による影響が強いと思われるもの」、「明らかに病気による影響が強いとは思われないもの」、「病気によるものか、病気によるものではないか明らかではないもの」、の3つの場合に分けられます。

皆さまから寄せられたストレス対策はどれもすばらしいもので、これらのストレス対策を行うことで、感じているストレスを軽減することはできると思いますが、そのストレスが「明らかに病気による影響が強いと思われるもの」の場合については、個々の病気の治療をしっかり行ったうえで、これらのストレス対策を行うことが必要であり、これらのストレス対策を行えば、病気の治療をしっかりと行わなくてもよいということにはならないということを肝に銘じていただきたいと思います。

ではストレスにまつわる5つの疑問について順番にお話しいたします。

疑問―なぜ歌を歌うとスカッとするのですか?

一言でいえば、「歌うことで同時に脳全体が活性化され、ストレスを発散することができるから」ということができます。
一口で歌を歌うといっても、頭のなかでメロディを奏でることから、小声で口ずさむ、声を出して「歌う」、大きな声を出して歌うなどいろいろな「歌を歌う」方法があります。
でも、スカッとするためには、カラオケボックスなどで実際に声を出して「大きな声で歌う」ことが注目されています。
歌うことは呼吸と関係しているので、大きな声を出すためには、深く呼吸する必要があり、そのためには腹式呼吸をしなくてはなりません。じょうずな腹式呼吸をすることで多くの酸素を取り入れることができます。
また、最近のカラオケでは終わった後「消費9・0キロカロリー」等と表示されるものもあるように、大きな声を出して歌うことは身体全体の筋肉を使うことにもつながるので、運動をしたのと同じようにエネルギーを消費する効果が得られるといわれています。エネルギーを消費するとそれを補おうとする働きにつながります。
ドクトルイチキは歌手でもあるのでカラオケではエコーを切って歌いたいほうなのですが、大抵はエコーをきかせたほうがうまく聞こえますよね。うまく聞こえると「いい気」になります。この「いい気になる」というのもスカッとする理由の1つです。
エコーをきかせる空間としては自宅のお風呂場などでもよいかもしれませんが、お風呂場であまり大きな声で歌うとあとで叱られて逆にストレスがたまることになるかもしれませんのでご注意を!

疑問―なぜストレス発散に睡眠が役立つのですか?

ストレスを感じるのは「心」ではなく、「脳」です。精神科の病気の多くは「心」の病気ではなく「脳」の病気です。
脳が疲れてくると、思うような働きができないためにストレスがたまりやすくなり、さらに脳が疲れてしまうという悪循環になってしまいます。 睡眠をとるということは、身体の疲れをとるとともに、脳を休めて脳の疲れをとる効き目があります。
また睡眠をとることは、疲労の入ったゴミバケツ(私はストレス・バケツと呼んでいます)のなかの疲労を捨てることと似ています。
疲れのとれていない脳を使って日常生活をおくることは、疲労のゴミが入ったままのストレス・バケツのままで毎日を過ごすようなものですから、さらに少しの疲労のゴミが入っただけでストレス・バケツがあふれてしまう、つまり再発してしまうことになります。充分な睡眠をとることでストレス・バケツをカラにすることできるのです。

疑問―本当に食べるのはストレス解消に役立つのでしょうか?

一言でいえば、役立つといえます。
動物でもストレスを感じると食欲が増すということがわかっています。人間でもストレスの環境下に置かれると「食べること」が癒し効果になり、気分を高揚させたり、抑うつ気分を軽減させるという実験結果があります。
しかし食べるという解消法はストレスを発散するだけではなく、カロリーオーバーになってしまうので、まったくおすすめできる方法ではありません。
でも、せっかくですので、食べてストレスを解消している方に耳寄りな情報を1つ。
疲れがたまっているときや就寝前の空腹時に、3度の食事以外に食べてしまう行動パターンを持つ高血圧、糖尿病などを患っている体重150㎏の患者さんがいました。この方の主治医が、何とか助けたい一心で、食欲を抑える効果のある脳内物質にたどり着き、「10分ガムをかむ」、「食事で1口30回かむ」ことでやせられるということを見つけ出しました。
そしてその患者さんは毎食1口30回の咀嚼だけで40㎏あまりの減量に成功したということでした。
ゆっくりかんで食べることで、満腹中枢が刺激されて、食べすぎ防止につながるということですね!(自分に言っているという話も…)

疑問―お酒をのんでグチを言うと、なぜストレス解消になるのでしょうか?

これは「適度なアルコールにはリラックス効果がある」ことと「他人に悩みごとを話すことでストレスが軽減される」ということの二重の効果があるからです。
ただしストレスがたまっている方は、往々にして「適度な」アルコールにはならない傾向があります。
ですので、別の方法で日頃からストレス・バケツの中身を減らすようにしておけば、ストレスを減らす目的でのみすぎるということはないと思います。

疑問―ビタミンやカルシウムはストレス解消に効きますか?

一言でいえば、効くといえます。
ビタミンB1は、ストレスを受けると体内で消費される量が多くなります。 また、ストレスを受けると私たちの体内では副腎皮質ホルモンが分泌され、全身の抵抗力を高めようとします。このときに必要なのがビタミンCです。
またカルシウムが足りないとイライラしやすくなったり眠れなくなるということも起こります。
ですので、ストレスがかかっているときにこれらのものを摂取することで不足している分を補うということができますが、本当はストレスが多くなってからこれらの栄養素を摂取するのではなく、日頃からこれらの栄養素と一緒にたんぱく質をとることで、ストレスに強くなるということが正しい考え方です。

疑問―薬でストレス解消は可能でしょうか?

一言でいえば、「不可能」だと思います。
それは最初にお話ししたように、ストレスのすべてが「明らかに病気による影響が強いと思われるもの」ではないからです。
さらに「明らかに病気による影響が強いと思われるもの」であったとしても、薬ですべての症状がなくなるわけではないのです。
すべての病気が薬で治るわけではありませんから、困っていることに対して薬を2倍に増やしても、困っていることが2倍ラクになるわけではありません。
むしろ「ある程度の」薬の量を超えてしまうと、有害な副作用が起こって、その副作用に苦しむことになります。
逆にまったくの薬なしではある程度以上のストレスに対抗するのは苦しいと思います。 精神科の治療で大切なのは薬物療法と非薬物療法をバランスよく行うことです。

いかがでしたか? それではまたどこかでお会いしましょう!