いいとこ探し、なんだかなあ…(本人)


こころの元気+ 2011年5月号特集より


特集6
いいとこ探し、なんだかなあ…

NPOコンボ共同代表
宇田川健


何で「いいとこ探し」なの

 いいとこ探しっていうけど、なんでそんなことを言いだす人がいるんですか。そんな言葉があったって、やったことないし、できないですよ。
N うーん。普通、病気になれば、昔と今を比べたり、できないことが増えたことばかり気にしてしまうから。それで言い出したんじゃないかなあ。
U もう昔の自分のことなんて、忘れているしなあ。昔できたことなんて、思い出そうにも発病してから二〇年過ぎているんですよ。どん底も何度も経験して、それでも自分がいるっていうだけですよ。いいところを探そうっていわれても、なんだかなあ。
N まあそうはいうけどね。世間様はだいたい、いいところを探すことより、物事の悪いところばかりに目が行きがちじゃない。新聞を見れば、悪い情報ばっかり目立ってるでしょう。
N まあ、それはそうですけどね。
実際に私たち当事者は、具合が悪いときには、何にもできませんよ。自分もまわりも、お手上げ状態になってしまいますし。
N そうか、うーん、でもUさんが何とかなってる時期だってあるじゃない。
U はい。

みんな偏見はある?

N そのときでも、何かにチャレンジしようとすると、それを止めようとする人がいるでしょ?
U まあ、それはね。主治医もセンターの人も、みんなそろって止めました。でもそれって、その人たちの仕事だからじゃないですか。でも勝手にいろいろやってますよ。それでだめになっても、ほっといてくれるNさんたちがいるし。
N 僕たちがほっとくのもよかれと思ってのことだけど、Uさんの支援者の人たちが止めるのもよかれと思ってでしょう。仕事だって言い切るのは、思いやりが足りないんじゃないかなあ。
U いろんなところで講演したりすると、専門職の人たちって偏見が強いなと思いますよ。あと、家族も偏見を持っているし、それから当事者も偏見を持っていますよ。偏見にもとづいた、「よかれ」ですよ。
N そんなこといいなさんなって。でも当事者が、無限の可能性があるって思えないで、何もできない人だって 考えがちなのは、Uさんによると専門職だけじゃないんだね。現実は、専門職の人ほど偏見が強かったりするのかと思ってた。
U メンタルヘルスにかかわる全員が、昔のことを忘れて、偏見のなかに いると思いますけど。
N そういった全員が、病的な部分にばかり目がいって、とらわれてしまっているんだね。
U そう。僕も含めてです。だからいいとこ探しって言葉ができあがっちゃったんですか。
いやな世の中ですねえ。
N でもメンタルヘルス以外の一般の世の中も、よいところよりも悪い部分を見たがるんだよ。つまりそれは悪いところばかりがクローズアップされる社会の仕組みがあると思うんだ。
U 社会が悪いっていうか、誰でも視点が悪いところに向きがちなんですね。だから誰もが、いいとこ探しをする必要があるっていいたいわけか。
N だからね。Uさんが、いいとこ探 しなんてできないって嘆いてるのは当 然なんだよ。
それにUさんの口から、いいとこ探しができなくても嘆く必要はないってことも言い出してほしいんだ。
U でも言葉があったって、行動につながらなければ意味がないじゃないですか。
N 当事者のいいところに目を向け るっていう行動。これまで、あまりなかったことだっていうのはわかったでしょう。結果として出てくるのは何だと思う。
U ああ、つまり僕は勝手にいろいろなことをやっているけど、他の仲間にとってもいろいろ今とは違ったことになりそうだってことですか。それなら、いいとこ探しって大切なのかもしれませんね。
N それだけでもわかってくれればいいんだ。