なぜいいところを見つけることが大切なのか(専門職)


こころの元気+ 2011年5月号特集より


特集3
なぜいいところを見つけることが大切なのか

独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院外来診療部心理指導室
馬場安希


最近よかったことを教えてください

私はこれまで十数年、医療の現場で心理教育に携わってきました。
心理教育のグループでは、当事者に向けても家族に向けても、いつも「最近のよかったことを教えてください」というウォーミングアップをしています。

私が考えたわけではないのですが、このウォーミングアップをすると、参加者の皆さんから笑顔が見られ、グループがほっこり温まるのでずっと続いています。
病気に関する集まりなのに、「よかったこと」を話題にするため、初めは皆さん「なんで?」という表情をされます。
「よかったことなんて思いつかないよ」と困った表情の方や、「毎日たいへんなのに、いいことなんてあるわけない!」と怒った方もいらっしゃいます。
それでも、なぜよかったこと探しを続けるのか?
その答えを、グループに参加されたご家族のアンケートから見つけましたのでご紹介します。

見方が変わった

「日頃はともすれば、できないところ、改善してほしいところばかりをみてしまうクセがついていたのですが、毎回よかったことを教えてくださいというフレーズを聞いたことで、見方が変わったことがとても大きな収穫でした」。
私たちは、知らず知らずのうちに「できないとこ」、「よくないとこ」、「悪いとこ」に目を向けるクセがついてしまっているようです。
これでは、「悪いとこ探し」をしているのと同じです。
しかし、「悪いとこ」というのはパワーが大きく、あっという間に100%が不幸であるかのように思わせるワナが潜んでいるので要注意なのです。
つらいことや困ったことで頭がいっぱいになってしまう、それはとても自然なことだと思います。
でも、ちょっと視点を変えて「よかったこと」、「ホッとしたこと」、「うれしかったこと」、「少しでもマシだなと思ったこと」を探すと、誰にでも見つかるのです。
「よかったこと」はみんなにある!
これはこれまで「よかったこと探し」を続けてきて、自信を持って言えます。
初めは、少しむずかしいと感じる方も多いかもしれません。
最初は、それこそ重箱の隅をつつくように、探してみてもいいと思います。
どんなに些細ささいなことでもいいのです。
「他の人にとっては、たいしたことないかもしれないけど …」これも大いに結構。自分だけの「よかったこと」が見つけられれば大収穫です。
そして、できれば「よかったこと」を聞いてくれる人がいるといいですね。他の人の「よかったこと」を聞くこともとてもいいと思います。

わが家ではお風呂タイムに、子どもたちと「今日のよかったことベスト3」を発表したりしています。
日々「早くしなさい!」と怒ることが多いママ(私のことです)なので、イライラが子どもにも伝染するのか、毎日きょうだいげんかが絶えません。
そんなわが家でも、湯船につかって「今日一番楽しかったこと」や「ちょっとうれしかったこと」などを思い浮かべると、心も体もぽかぽかリラックスできます。

また、日記がわりに毎日ノートに書いている方もいました。
「ひいきの野球チームが勝った」、「窓の外にきれいな夕日が見られた」、こんな「いいこと」が並んでいるノートなら、いつも身につけておくと元気になれそうです。
「いいこと」を見つけたからといって、病気が直ちによくなるものでもないし、これまでの苦労がすべて報われるというものではありません。
ただ、小さな「よかった~」や「よかった‼ 」は、日々心のどこかに少しずつ少しずつ蓄積されます。
「おいしー」でも「うれしーい」でも何でもいいのです。
この「よかったこと貯金」で、健康な自分がより大きくふくらんでいくのではないかと思います。
皆さんも始めてみませんか?