再発はその人固有のもの(医師)


こころの元気+ 2011年2月号特集より


特集9
再発はその人固有のもの

東京医科大学茨城医療センターメンタルヘルス科(精神科)科長
市来真彦


再発はある程度予測が可能

どのような病気でも、再発することは、ご本人にとってもご家族にとっても(担当医にとっても)ツラく、いやなものです。しかし、精神科の病気の再発は、ガンの再発のようにいつくるのかわからない、という場合とは限らず、ある程度予測可能な場合があるようです。

たとえば私が担当している女性の患者さんのなかに、生理の前になると統合失調症やうつ病の症状が悪化して家族や友達とけんかをしてしまい、生理が始まって病状が落ち着くと、後悔することをくり返してしまう方が何人かいます。
彼女たちは、生理の前に「気分不安定のサイン」が来たら、生理が始まるまでの期間だけ薬を増量して対応するようにして、大きなダメージを回避しています。

このような再発を予測する因子には、「病気の特性」と「自分の特性」がありますが、今日は「病気の特性」についてお話しします。
まずどのような状態を「再発」と考えるか、簡単にお話しします。
患者さんにとって再発というのは、「調子の悪い状態が、ある程度の期間持続したり、どんどん調子が悪くなっていき、今までのような日常生活がおくれなくなること」ということができるでしょう。
そういった意味では、「定時薬を増やすほどではなく、一時的に頓服薬(臨時薬)を用いて対応可能な状態、いわゆる症状のブレ」と再発とは区別されています。

次に、再発の原因についてお話しします。
再発の原因については、「その人特有のパターンがある」ように思います。

たとえば統合失調症の患者さんのなかには、何か同じような出来事があると、その後に決まって調子を崩す場合があります。その「同じような出来事」は人によって違いはありますが、ある研究によれば、「お金に関係することか、恋愛に関係することか、自分のプライドに関係すること」といったもののどれかが多いようだ、というお話もあります。

一方躁うつ病は、「循環病」といわれているように、取り立てて原因といえるようなことがなくても、春先になるとウキウキしてきて躁状態になる、といったように、毎年同じような時期になると調子を崩すことをくり返すことがあります。

うつ病の場合は、統合失調症のように、同じようなパターンのあとにうつ状態になることをくり返す場合もあれば、躁うつ病のように取り立てて原因といえるようなことがなくてうつ状態になったり回復したり、といったことをくり返す場合もあるようです。
また「くり返す」とはいっても、毎年というように限ったわけではなく、一〇年ぶりにうつ状態になった、というように長い期間の後に再発をくり返す患者さんもいらっしゃいます。

いずれにせよどんな病名でも、再発には何らかの「その人特有のパターンがある」ように思います。

再発をくり返すと …

最後に、再発をくり返すとどうなるのかというお話をします。
統合失調症の場合は、一般に再発をくり返すと元通りの状態には「完全には」もどらないといわれており、確かに私も診療していてそのような印象をもつ患者さんが少なくないように思っていました。
しかし最近では、かなり元通りに近い状態まで回復してくる患者さんが増えているように思いますので、再発したからといって将来を悲観する必要はまったくないと思います。

ただし昔も今も、再発してから早く対応した場合と遅く対応とした場合では、回復の度合いや回復に要する時間がかなり違うので、再発には「早めに対処する」ことが必要に思います。
薬をきちんとのんでいたとしても、再発は完全には防ぐことはできませんから、そういった意味では、精神科の病気の多くは「再発をくり返す可能性がある病気」といえるでしょう。
再発の確率を低くするためには、日頃から再発に関する「病気の特性」と「自分の特性」を、周囲の人や担当のお医者さんとよく話し合って、「自分の再発のパターン」を見極めておくことが大切です。
もし再発しても、再発から回復したときこそが、再発について勉強する一番の機会ともいえるのです。
「病気があっても元気で生きる!」ことをお祈りしています。