経験談


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精神科の治療の上で、精神科医に適切に情報を伝えないとおかしなことが起こることがあります。辛さをうったえれば、それだけ薬を増やす精神科医もいます。精神科の病気の具合が悪くなっているのか、生活面での環境の調整が必要なのか、適切な情報を伝えないと、薬ばかりが増えてしまう場合が多いです。

経験から言うと話すコツとしては
・病気を意識せず、いつ、どこで、何が起きたかをまず話す
・最低限の敬語を使う
・初期の頃は細かいことも報告(久しぶりに散歩に行けたとか)
・疑問は自分が納得するまで質問する
といったところです。さて、「こころの元気+」の特集から、医師とのコミュニケーションについて見てみましょう。筆者の所属は執筆時の所属先です。


特集8
つらさやさびしさに効く薬はありますか?
小林和人
医療法人山容会 山容病院 院長


すべての人間がそうであるように、医者も年齢とともに変わります。
私の場合、新米の頃はとにかく薬のことで頭の中がいっぱいでした。目の前の患者さんがよくならないと
「きっと薬が合っていない」
「薬を増やさない、と変えないと」と急ぎ、結果として、今より多量かつ多種類の薬を出していたのです。
でもふり返ると、薬の処方は変えていないのに具合がよくなるケースを当時から経験していました。

それを単に「相性」と呼んですませ、深く考えなかったのは、私が未熟だったからです(今でも未熟ですが…)。
その頃、「相性がよい」とされていた方に、私はどのようなことができていたのでしょうか。
音楽を聴くことをすすめたり、散歩を促したり…。
当時は私から生活や行動面での助言を与えることは少なく、会話の流れでたまたまそのような話題になった患者さんにばかり、アドバイスしていたのかもしれませんね。

つらい、さびしいと言われたら

多くの患者さんとの出会いにより、私は少々変わりました。
薬物療法の占める割合が年々下がってきています。
患者さんによって異なりますが、初診でいきなり、私のほうから「薬物療法は大切だが、治療のうちの半分以下、他にも取り組むことがあります」と言ってしまうことがあります。
最初に私の考え方を話しておいたほうが、後々よい結果が出ている気がします。
そんな私ですから、漠然と「つらい、さびしい」と言われても、すぐに処方の提案をせず、あくまで薬に頼らないのがベストと説明します。
それを理解してもらったうえでなら安心して薬を出せます。

もちろん、診断や病気の時期によっては「とにかく今は必要なんだ」と私から強く服薬をすすめることもあります。
その場合でも「抗不安薬は一時的に使うもので、落ち着いたらやめる時期を話し合います」とあらかじめ告げておきます。
ちょっと面倒くさいと思いますか?

その通りです。料理と同じで、手間をかけることが何よりも大切です。さっさと薬を処方せずに、いったん立ち止まって話し合い、考える。
家族や友人と会話する、音楽を聴く、アロマを焚く、散歩に出かける、部屋を片づける、(寒い地方では)雪かきをがんばって汗をかくなど、さまざまなやり方があることに気づきます。
家族構成、生活環境などを知って(教えて)いないと、なかなかこういう話題はできません。
いやあ、面倒くさくてたいへんそう。しかし、これが味の秘訣なのです。

錯覚にとらわれないよう

さて、あなたの先生はどうでしょうか。
きっと忙しいでしょうから「つらい、さびしい」と言えば、つい、すぐに薬の話を始めるかもしれません。

そこで一言、
「先生、つらさやさびしさに効く薬ってあるんですか?」
とか、あるいは思い切って
「先生はつらいときどうしますか?」
とか、聞いてみましょう。

先生に気をつかって(効いている実感がないのに)
「この頓服、効いている気がします」などとむやみに言わないように。そこから深みにはまる恐れがあるんです。
病院の中にいると、何でも診察や薬で解決できそうな気がしますが、それは錯覚です。

この錯覚に医療従事者もとらわれます。
忙しいとつい、その場で何とかしようとして、先を見すえた対応ができなくなります。
「何もしないことの根拠」を説明するのは面倒で、とりあえず何かして見せたほうがその場は楽です。
ここまで偉そうなことを書きましたが、実は私は料理が得意ではありません。なのに料理にたとえていろいろと書いて…医者なんてそんなものです(!)。

医学は常に進歩するので、どんな医者も成長途上だといえます。
遠慮せず皆さんの率直な考えを先生に伝えましょう。
今までと違う診察を経験できるのではないでしょうか。


小林和人(こばやし かずと):山形県酒田市にある山容病院院長。地域の人に精神科のことを理解してもらえるよう、臨床・相談事業・講演活動を展開中。自殺予防とアルコールの講演で市内のコミュニティセンターを巡回。趣味は自転車。シルクロード単独横断(中国からイタリアまで1万キロ)、オーストラリア横断(ブリスベンからパースまで6500キロ)の走行歴あり。

山容病院院長のブログ:http://blog.livedoor.jp/sanyokai/


こころの元気+87号特集より