家族のリカバリーとは? (専門職)


こころの元気+ 2013年9月号特集より


特集4
家族のリカバリーとは?

東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻地域看護学分野
蔭山正子


リカバリーとは、本来、精神疾患をもつ本人に関する概念です。たとえ疾患による限界があっても、精神疾患という衝撃的な影響を乗り越えて、新しい人生の意味や目的を見出すそのプロセスです。
しかし、精神疾患の発症は、家族にとってもたいへん傷つく体験であり、家族自身もリカバリーを経験しえます。

国内外の研究を私がまとめた論文から、そのリカバリーのプロセスをご説明します。

家族の経験の多くは、本人の様子が普段と少し違うという「問題への気づき」から始まります。何とか自分なりに対処しますが「効果的に対処できず憔悴」し、ついに「危機」が訪れます。

精神疾患と「診断」されても適切な支援はなく、「不満」をいだくと同時に、自責感や無力感などの「否定的な感情」に襲われます。そして、発病前の本人との違いに「喪失・悲嘆」し、周囲からの「スティグマ(偏見)による困難」が追い打ちをかけます。

再発や度重なる「病状の不安定さ」に一喜一憂する日々が続きます。しかし、学習や実践を重ね、同じ立場の家族との出会い等によって「効果的な対処」が可能になり、また、病状も安定していきます。

この先は、研究結果が一致していません。
あるご家族は、新しい人生を見出したことを「険しい道を登って山頂に来たら、すばらしい景色が見えた」と表現しました。悲しみや苦しみを共感できる人とのつながりによって、自分の視野が広がり、人生観が大きく変わったそうです。
「本人が病気になった経験も含めて今の自分がある。私はやっぱり変わった。違う価値観の人生を生きている」と目を輝かせて話されました。
そのような人間的魅力にあふれ「まばゆいばかりに輝く」家族の姿は、次世代の家族の希望につながります。
愛しい人の発病という現実は、過酷で耐えがたいものに違いありません。
しかし、その現実があるからこそ得られる価値ある人生がある、それを見出すプロセスが家族のリカバリーなのかもしれません。