親なき後も病いと向き合い、地域で暮らしていく「生活力」(本人)


こころの元気+ 2010年5月号特集より


特集4
親なき後も病いと向き合い、地域で暮らしていく「生活力」

当事者相談員/黒川常治


「もし、自分一人の生活になったら …」とても不安になりますよね。でも、一人で暮らしていく「生活力」を備えていれば、少し安心できます。
「うちはまだ大丈夫」、「私(親)が生きているうちは私が面倒を見るから …」と他人事にしていませんか?
でも、「その時」は明日やってくるかもしれないのです。先送りにしないで、親がまだいる今だからこそできる当事者の「生活力」を身につけていきましょう。
お金のこと

では、一人で地域のなかで生活していくということはどういうことでしょうか?
僕は三年前グループホームを卒業し、今は家賃の安いアパートで働きながら一人で生活しています。すべてがうまくできているわけではありません。ほどほどの「生活力」で、うまく手を抜きながら暮らしています。

それでは「生活力」とはどんな力でしょうか?
すぐに想像がつくのは経済力。「お金」に関することです。どれだけの収入があって、どれだけ支出するかです。使えるお金は、貯金・障害年金・生活保護費などでしょう。働く方も、そのお給料のなかで生活していかなければなりません。僕は、障害年金と給料で暮らしています。

それでは、どれだけ支出していくのでしょうか?
家賃・光熱水費・電話代・食費・交通費・税金・散髪代 …。これだけとっても、支出の大半を占めてしまいます。エコのためだけではなく、節約して支出をおさえる工夫も必要です。
また、忘れがちなのは「医療費」です。精神科の通院にかかる費用は現在、原則一割負担です。しかし、当事者が病気と関わるのは精神科だけではありません。風邪やインフルエンザ、思わぬケガをすることもあります。こうした場合は、三割負担になりますが、思わぬ出費になります。
僕は突然「帯状疱疹」に襲われて受診したことがありましたが、処方された薬は高く、八〇〇〇円を超えました。生活に響いたのはいうまでもありません。いざという時のための貯えも必要ですね。
家のなかのことなど

一人の生活を始めると、いろいろ負担があります。
朝決まった時間に起きて、ゴミを決まった曜日に出し、食事の準備をして、洋服は洗濯をして干していたので、部屋の掃除 …家のなかのことだけでもやらなければいけないことがたくさんあります。
買い物やいろいろな手続き、支払いも自分でしています。決まった時間には、家から会社に向かいます。
帰宅後は、一休みして、次の日のことを確認し、夕食をとり、銭湯で汗を流し、薬をのんで眠りにつきます。
休日は、一週間の疲労を癒すため、ゆっくりとしています。

ここにあげた家事などを、少しずつ練習していくのもいいと思います。家族で料理して、一緒に卓を囲むのもいいでしょう。また、生活習慣予防も大切です。糖尿病・高血圧・脂肪肝など身近な問題です。体質改善も心がけなければなりません。

あと、親と一緒に精神科を受診している方、調子が悪いときに薬を親にもらいに行ってもらっている方も多いです。親なき後は自分一人で受診しなければいけません。自分のつらさを自分で伝えて、薬も処方してもらい、薬ののみ方を守って暮らす。これは精神疾患の方に必要な大事な「生活力」です。

いろいろと、たいへんそうなことを書きました。たいへんですが、できることから少しずつチャレンジしてみてください。かくいう僕も実は、週に一日ヘルパーに来てもらって、部屋の片づけを手伝ってもらっています。

また、すでに一人暮らしをしている仲間に、「どんな工夫をしているか? 困ったときはどうしたか?」など聞いてみるのもいいでしょう。仲間がいると心強いですよね。

他に専門的に支援してくれる社会資源を利用するのも大事な力です。
地域には、「地域活動支援センター」、「社会福祉協議会」などがありますので、困ったときには、相談してください。

「生活力」をつけるのは、病いを抱えながらも自立して暮らしていくうえでとても大切なのです。