薬の処方のあり方はどのように変わるのか?(専門職)


こころの元気+ 2014年1月号


特集5
薬の処方のあり方はどのように変わるのか?

東邦大学薬学部医療薬学教育センター 臨床薬学研究室
吉尾隆


薬物治療の問題点

これまで、統合失調症の薬物治療では、抗精神病薬の多剤併用大量処方、抗パーキンソン薬や抗不安薬・睡眠薬の併用率の高さが大きな問題となっていました。

精神科臨床薬学研究会(PCP研究会)による、この数年間の処方調査においても大きな変化は見られていませんが、抗精神病薬の多剤併用大量処方と抗パーキンソン薬の併用率は、少しずつではありますが改善の傾向が見られます。
しかし、抗不安薬・睡眠薬の併用率はあまり変わらず、気分安定薬の併用率は増加傾向にあります。
一方で、うつ病や双極性障害にも抗精神病薬、特に第2世代(非定型)抗精神病薬の併用が増加しています。
したがって、処方だけでは、どのような精神疾患の薬物治療なのかがはっきりとしないケースが増加しています。

このように、現在、統合失調症の薬物治療とうつ病や双極性障害の薬物治療の区別がつきにくくなっているのは、統合失調症と双極性障害が病態として共通のものを持っていると考えられてきているためです。

統合失調症の薬物治療は単剤・低用量で行われることが理想ですが、薬理的に特徴の異なる抗精神病薬の2剤までの併用は、臨床的な効果が確認できるのであれば、つまり、患者さんの利益になるのであれば許容されるかもしれません。
しかし、CP換算で1000㎎以上となるような投与量は避けなければなりません。
したがって、統合失調症の薬物治療の今後は、抗精神病薬2剤以下、CP換算で1000㎎以下である薬物治療も増加していく可能性があります。
また気分障害を伴う統合失調症の薬物治療には気分安定薬の併用が増加すると考えられます。

 

薬物治療の変化

最近の研究では、双極性障害のうつ状態への抗うつ薬の併用は、効果がないばかりか躁転やラピッドサイクラー化(躁とうつの急速な交代)のリスクがあり、推奨されていません。

このように、現在も、以前に比べ精神科薬物治療は大きく変化してきています。
それでは、未来の精神科薬物治療はどうなるかと考えますと、現在もさまざまな新薬の臨床試験が行われており、これまでの薬とは薬理作用の異なるものも出てくることは確実です。

しかし、やはり、重要なことは、できるだけ少ない種類(単剤)、少ない用量での治療を検討するべきであり、信頼できる科学的な証拠とアルゴリズム(決められた手順)やガイドライン(診療指針)に沿った治療がますます求められるのではないかと思います。