うちまで来てくれるサービス(専門職)


こころの元気+ 2012年12月号特集より


特集2
うちまで来てくれるサービス

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
社会復帰研究部援助技術研究室長
吉田光爾


「自宅に支援者が来てくれると助かるな…」と感じる当事者の方・ご家族の方は多くいらっしゃると思います。
しかし「訪問」のサービスはいろいろと種類があり、わかりにくいものですので、ここでは代表的なサービスを4つご紹介したいと思います。
なお、精神障害の方の2つのつらさ、「生活のしづらさ」を支えるのが福祉のサポート、「症状のつらさ」を支えるのが医療のサポートと考えて整理してみました。


生活のしづらさを支える福祉の訪問サービス
~ホームヘルプと訪問による生活訓練~

 

~ホームヘルプサービス~
家事を手伝ってもらいたい!

「生活のしづらさ」を思い浮かべた場合、「家事を手伝ってもらいたい」という希望が浮かぶ方も多いことでしょう。その家事をお手伝いするのが「ホームヘルプサービス」で、ホームヘルパーが掃除や洗濯、食事の準備等の手伝いをします。

ひとり暮らしを始めた方、長い間の入院や病気で家事が苦手な方などの利用が多いようです。精神障害の方向けにサービスをする事業者も増えており、使いやすい支援の一つです。

ただヘルパーの役割はあくまで家事のお手伝い。支援の範囲は国で定められています。 たとえば、お薬の管理や通院の支援はできませんし、同居しているご家族の分の家事もできないのです。基本的に、簡単な家事の手伝いが支援の範囲です。家のなかでの急な困りごとはよく起きるものですが、ヘルパーが応じられないこともあるのです。ご自分と事業所の間で「何を頼めるか」について整理しておくとよいでしょう。

もしホームヘルプの利用を希望される場合、市町村や相談支援事業というサービス利用について相談にのっている事業者に申し込みます。 障害者自立支援法の制度ですので「どの程度生活に困っているか」を調べる障害程度区分判定という手続きを受けてください。

 

~訪問による生活訓練~
望む生活に向けて動き出そう

生活の困りごとがすべてホームヘルプで解決するとは限りません。 生活のなかで夢を描いても、「もっと外出したいけど公共交通機関に乗れない…」、「買い物を楽しみたいけど金銭管理が苦手…」など、地域生活で必要となるさまざまな知恵やスキルに不慣れで、その夢をかなえられない場合もあるものです。

「訪問による生活訓練」はそのような方が、望むような暮らしをおくれるように、支援員が訪問を通じて相談にのったり一緒に練習したりして応援するためのものです。
「訓練」というと不安に思われるかもしれませんが、ご安心ください。 生活訓練は「今の生活を変えたい」という方が、生活のなかで夢やできることを支援員と一緒に探し、挑戦するための支援なのです。
たとえば「もっと外出するためにバスに乗りたい」という希望がご本人にあれば、支援員が同行してバス乗車に一緒に挑戦してみます。あるいは「ひきこもりがちでなかなか夢を描けないけど、なんとかしたい」と思えば、「今後の過ごし方を考えて楽しいことをやってみよう」と支援員が一緒に考えるのです。

「訪問による生活訓練」は自立支援法の制度で、通常は通所・宿泊による支援なのですが、先進的な事業者では訪問を行っています。
この支援はホームヘルプより柔軟に利用者の希望に添えるのが特徴で、活動も自宅に限定されず、外出支援や通院同行もできます。それが本当に役立つと支援者や自治体が判断すれば、利用者の方の希望に合わせて、レクレーションなどの支援もできるようです。

申し込みは市町村・相談支援事業所にお問い合わせください。
なお利用期間は二年間(更新の判断は自治体によります)で、生活支援員とよばれるスタッフが訪問します。 支援員の資格規定はありませんが、精神保健福祉士などが多いようです。

ただし福祉事業者による支援なので、症状や健康管理などの医療相談は得意なわけではありません。 また、新制度で事業者が少ないため、お住まいの地域でサービスがないようなら、皆さま方から「使いたい」という声を行政や福祉関係者に届けてもらうと、広がりが出てくるのではないかと思います。

 

医療的な側面から支える

~訪問看護~

症状や体の健康など、医療から支えるのが「訪問看護」です。 おもに看護師(場合によって作業療法士や精神保健福祉士)が、家庭や地域社会で安心して日常生活をおくることができるよう定期的に訪問し、相談や必要な支援などを行います。

医療の事業者ですので、他の訪問サービスに比べて、症状やお薬のことについて専門的な相談ができるのが強みです。また精神障害と同時に体の悩みをお持ちの方も多いのですが、肥満の問題、食事の栄養、糖尿病などの合併症に関しても、相談できるのは心強いと思います。
また訪問看護を行う精神科病院・訪問看護ステーションの数は近年少しずつ増え、使いやすくなりつつあります。 一方、福祉のサービスではないので、生活上の困りごとに関しては「具体的に支援員が手を出してお手伝いする」よりも「相談やアドバイス」でのかかわりが多いように感じます。

また、支援は自宅を中心に行われるので、訪問による生活訓練のように、外に出て一緒に活動を行うこと(例・外出して役所や銀行で手続きの練習をする・レクレーションを行う)はしていない場合もあります。
そのため、生活面では落ち着いているけれど、症状のことをよく知っている通院先のスタッフに生活を見守っていてほしい方や、一人ではお薬や体のことが少し心配な方などに向いているサービスといえるかもしれません。
申し込みにかんしては、通院先の主治医やソーシャルワーカーに相談してみてください。

 

医療と福祉のサービスを一緒にお届けする

~ACT アクト ~

「生活も症状も、どちらも困っているよ」という方に、どちらもサポートしよう、というのが「ACT」です。
ACTは、医師・看護師・作業療法士・精神保健福祉士などによる多職種の人たちによる訪問チームが、二四時間三六五日体制で訪問支援を行うサービスです。

ACTは生活訓練と訪問看護の両方のよい点を合わせもつサービスといえましょう。いろいろな職種のスタッフがいるので、生活上の困りごとにかんする福祉的な支援についても、薬や症状などの医療的な側面についてもまんべんなく相談できます。

他の訪問サービスと比べると、訪問の回数も週一~二回以上と頻繁に訪問している事業所が多く、支援の内容も柔軟な場合が多いようです。また、多くのACTは夜間の状態の急変に対しても、電話や訪問により二四時間応対できる体制になっています。これにより自分の夢や望むような暮らしを安心して描き、安定的に地域生活をおくれるように支援するのがACTなのです。

ただACTでは、濃密な支援ができるように、一人のスタッフが受け持つ利用者の方は一〇人程度と決められています。そのため、医療と生活のサポートが必要な病状の重い方、二四時間での対応を必要とする方など、どうしても支援の範囲を絞らざるをえないのです。欧米では人口数十万に一チーム程度整備されている地域もあるのですが、わが国では現在ACT事業所は全国合わせても一〇数か所であり、「すぐに利用できる」までは普及していないのが残念な点です。もっと多くの事業所ができていくことが望まれます。

 

四つのサービスをまとめました。生活のしづらさが大きい方への福祉的な支援がホームヘルプや訪問による生活訓練となり、症状等の医療的な対応が必要な方への医療的な支援が訪問看護となります。両方の支援を強く必要とする方への支援がACTとなるでしょう。

国では現在『精神障害者アウトリーチ推進事業』を行っており、事業の成果を踏まえて今後の訪問支援制度の改革・充実を考えているようです。こうした取り組みにより、読者の皆さまのもとに早く訪問支援の風が届く日が来るのを期待しています。

※ACT(アクト):Assertive Community Treatment 包括型地域生活支援プログラム