働くのに必要なこと…それは希望(専門職)


こころの元気+ 2013年7月号特集より


特集6
働くのに必要なこと…それは希望

NPO法人コミュネット楽創
本多俊紀


就労支援の仕事をしていると「僕は、どうしたら働けますか?」と聞かれることがあります。
その言葉には「症状があると働けないかも」「資格も経験もなくて仕事できるだろうか」「調子が悪くなって続かなかったらどうしよう…」そんな不安が見え隠れします。 それに対し私は、「あなたが働きたいと思うのであれば働けます」と答えています。

 

それまでより、これから

私が実践しているIPSでは職業準備や訓練を就職の前提条件としていません。それを信じられない方や「作業所にもちゃんと通えないし…」という方もいるでしょう。
でも、ちょっと考えてみてください。たとえば支援者も、学校を卒業して経験がないまま働き、業務の中で仕事をおぼえていった方が多いし、学生時代には授業に遅刻・欠席した経験、二日酔いや寝不足のまま出た経験もあったりするでしょう。
それでも今は、朝から職場に行き、しっかり仕事をしていますよね? 私も同じです。

それまでがどうであれ、その後も同じとは限らないのです。そこには病気・障害の有無に関係なく、「働きたい」という思いと、目標、やりがい、情熱、責任感等が大きく関係し、そんな「希望」を大切にした支援がIPSなのです。
だからといって、IPSはすべての準備訓練を否定してはいません。やりたい仕事に最低限必要な資格(運転手の運転免許等)は重要ですし、その訓練は大切なことです。
しかし、目的があいまいな訓練や、訓練のための訓練、一歩踏み出す勇気を後回しにして、「失敗させないことがよい」という価値観を否定しているのです。

IPSの支援者は希望に向けたチャレンジを促進し、就職活動から在職中、離職、再就職までのサポートをします。
そのなかで最も重要な支援こそが「可能性を信じる」ことだと思います。
希望が新たな可能性を生み、失敗を恐れずにチャレンジできるようにし、そのための必要最小限のサポートがあれば、また希望と可能性を広げられるのだと思います。「症状の悪化」を心配する方もいるでしょうが、何が症状悪化をまねくのかは予想しきれません。

予想できないことを予想しようとしても、不安が先に立ち、チャレンジできなくなります。 それなら健康を維持して仕事ができるように一緒に考えるサポートや、緊急時のことを事前に話し合うほうが、可能性を広げられるのではないかと思います。

私自身も支えてくれる家族や同僚、仲間がいるから働けているのです。言い換えるとサポートがあれば働けるのです。
でも、私の経験では、働き始めるとどんどん元気になって、自分自身でよい方法を見つけて、勝手に元気になっていく方が多いんですけどね。 充実した職業生活をおくることこそが「希望」であり、その希望を叶える「手段」でもあるからみんな元気になるんだと思います。
そう考えると「仕事」は副作用もゼロではありませんが、それ以上に病気を治すことができる「よい薬」だとも思います。

 

支援者に何度も伝えてみる

その一方で、「IPSの支援者がまわりにいない」とよく聞きます。 しかし、多くの誠実な支援者は、あなたのことを大切に考えています。それが「失敗させたくない」につながっており、そんな支援者は「希望」の大切さもわかっていたりするのです。
だから、まわりにいる支援者に自分を大切にしてくれている気持ちも受けとめたうえで、こう伝えてみてください。
「失敗することもあるけれど、可能性があるならばチャレンジしたい。そして、それを支えてほしい」
1回ですべてはうまくいかないかもしれませんが、信頼して何度も伝えてみてください。そうしていくことでIPS実践者は確実に増えていきます。

IPSは「失敗しない」というより「チャレンジする」ためのサポートであり、失敗の経験も前向きに捉え、希望の達成という大成功をめざすサポートです。 そのためには、利用者と支援者相互の信頼と協同が重要なのだと思います。

そして誰にも希望が必要です。希望が見えるとがんばれます。それは、利用者も支援者もまったく同じです。 働くのに必要なこと、それは…希望です。