気分安定薬の適正な使用について(医師)


こころの元気+ 2014年3月号特集より (「こころの元気+」バックナンバーからの転載ですので、掲載時の情報であることにご注意下さい)→『こころの元気+』とは


特集8
気分安定薬の適正な使用について
双極性障害治療薬の正しいのみ方

国際医療福祉大学熱海病院・教授
NPO法人 日本双極性障害団体連合会(ノーチラス会)代表
北里大学医学部 客員教授
鈴木映二


今回は代表的な双極性障害の治療薬について取り上げます。最近は非定型抗精神病薬も認可されましたが、ここでは割愛しています。

リチウム

リチウム(商品名 リーマス、リチオマールなど)は、躁状態にもうつ状態にも再発予防にも効果があるといわれています。
ところで、薬は何回か続けてのむうちに血液中の濃度(血中濃度)が徐々に上がりますが、ある時点で頭打ちとなります。

リチウムは、血中濃度がある程度高くならないと効きませんが、少しでものみすぎると中毒症状が出ます。
そのため、この薬は規則正しく服用することが大切です(一日一度の服用も可能ですから、医師とご相談ください)。そして、時々採血検査を受けて、薬の血中濃度を測ってもらう必要があります。

そのとき注意していただきたいのは、朝、薬をのんでから採血すると直前にのんだ薬の影響で本来の血中濃度よりも高い濃度になってしまうことです。
ちなみにリチウムの血中濃度を0.5~0.8 mEq/Lに保った人たちよりも、0.8~1.0mEq/Lに保った人たちのほうが2倍以上も再発率が低かったという研究があります。
ただし、血中濃度の高い人のほうが副作用も出やすかったようなので、副作用に注意しながら0.8 mEq/L以上を保ったほうが、再発防止という面ではメリットがありそうです。

怖い副作用には、のみすぎによる中毒、服薬中に妊娠すると奇形ができやすいこと、長期の服用で腎臓、副腎、卵巣、骨などに異常が現れることなどがあります。
頻度の多い副作用としては、震え、眠気、吐き気、下痢、体重増加、口が渇くなどがあります。

リチウムは、少しの血中濃度の変化で中毒症状を起こしますから、サプリメントや民間療法は控え、風邪などのときにも、必ず医師か薬剤師に相談して薬をのむようにしてください。
リチウムは大量服薬するとたいへん危険な薬ですが、自殺予防効果が証明されている唯一の薬でもあります。

バルプロ酸

バルプロ酸(商品名 デパケン、セレニカ、バレリン他多数)は、うつ状態よりも躁状態のほうに効果が期待できます。特に躁状態のときにイライラや興奮が出る方は、リチウムよりよいかもしれません。しかし、再発予防効果はリチウムに劣ります。

バルプロ酸は、リチウムに比べると中毒症状が起きにくい薬ですが、血中濃度を定期的に測定することは必要です。やはり血中濃度を測定する日は朝の薬を抜いてください。最近は血中濃度を80μg/mL以上の高めに保ったほうがよいといわれています。
副作用としては、肝障害、膵炎、高アンモニア血症、血小板減少症、妊娠中の服薬で奇形の原因になりやすいことなどがあります。
薬ののみ合わせにも注意が必要ですが、特にラモトリギンとの併用に注意が必要です。

カルバマゼピン

カルバマゼピン(商品名 テグレトール、レキシンなど)の特徴や血中濃度の測定に関してはバルプロ酸をご参照ください。血中濃度は4~12μg/mLが適当とされています。
副作用はバルプロ酸のものに加えて、皮膚症状が出やすく、重篤になると死亡することもありますので注意してください。
この薬は、一緒に服用するほとんどの薬の血中濃度を下げてしまうという特徴があります。他の薬を服用する場合は、必ず医師や薬剤師とご相談ください。

ラモトリギン

ラモトリギン(商品名 ラミクタール)は双極性うつ病の再発予防効果があります。
この薬は血中濃度の測定が保険適用になりませんが、一日の服薬量として、100~200㎎がよいといわれています。
ただし、この薬は他の薬に影響をたいへん受けやすいので注意が必要です。バルプロ酸と一緒にのむ方は量を少なめにし、カルバマゼピンなどと一緒にのむ方は量を多めにする必要があります。
副作用で最も気をつけなければいけないのは皮膚症状です。重篤になると死亡する方もいるので注意が必要です。

最後に

最近問題となっている多剤併用療法について一言。
双極性障害治療薬は、時に併用も必要なので心配しすぎるのもよくありませんが、抗不安薬や睡眠薬に頼ってしまったり、一時的に服用すべき抗精神病薬や抗うつ薬をいつまでも続けたりすることは問題です。
薬は用量や用法を守って服用し、よく相談しながら合う処方をつくり上げていってください。

 

※双極性障害のガイドラインが日本うつ病学会から発表されています。「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害」。何度も改訂されていますので、最新の情報はそちらをご覧下さい。